梅雨が明け、夏到来。
わたるは危険とわかっていながらも、かなみの家の庭先を覗く。
また、花が咲く日を待ちながら、来る日も来る日もかなみの家の庭先を覗く。
その時、携帯が鳴った。仕事の電話だと思い、出てみたら、それは、逢いたくてたまらない声が聴きたくてたまらなかったかなみからだった。
『もしもし?』
『中々…花咲かせられなくて…ごめんなさい…』
いつ電話が切られるかわからない状態にドキドキするわたるに、かなみは中々家の庭先に花を飾れなくてごめんなさいと呟いてきた。
『いいえ…大丈夫です…僕はもう…待つことには慣れています…』
『本当にごめんなさい…でも…明日…十一時に駅前広場で待っていてください…』
『明日ですか…?はい…待ってます…来るまで待ってます…』
待つことにはもう慣れていると呟いたわたるに、かなみは、もう一度ごめんなさいと呟いた後、明日、駅前広場で待っていてくれと呟き、その言葉を聞いたわたるは、明日、かなみが来るまでずっと待っていると呟く。
それだけを告げて切れた電話に、わたるは、胸が躍るのを感じていた。
明日、かなみに逢えるかもしれない…ましてや、外でなんて初めてだ…かなみからの遠出のお誘いに、わたるの心は躍った…。
「わたる。なにしてるの?気を付けろって言ったじゃない」
「お前こそ何してるんだよ?」
「説明は後。わたる。行くよ」
かなみとの遠出に心を躍らせていたわたるに、何しているのかと近寄ってきたゆかりに、ゆかりの方こそこんなところで何しているのかと訊ねたわたるに、ゆかりはわたるの手を取ると、わたるを引っ張っていく。
何事かと思って、かなみの家を振り返った時に、社長の西田がかなみの家に入っていくのを見かけた。
「わたる。気を付けろって言ったじゃない。もし、あのまま、突っ立てたら見つかるとこだったんだよ」
「わかってる…ありがとな…助けてくれて…」
強い口調で気を付けろって言ったじゃないかと語気を荒げるゆかりに、わたるは、わかってると呟いた後、助けてくれてありがとうと呟く。
「少しは気を付けてよね。わたるは、一つの事に集中すると、周りが見えなくなるんだから」
「うん…悪いな…」
秘密の恋をしているのなら、一つの事に集中したら、周りが見えなくなる癖を何とかした方がいいと呟いてきたゆかりに、わたるは、この癖は気を付けると呟く。
ゆかりは、わたるの心が手に入らないのなら、せめて、わたるが秘密の恋を全うできるようサポートしてやろうと考えた。
それが、自分のわたるへの想いの証しにしようと考えた。
少し辛いが、わたるの辛さに比べたらましかもしれないと思いながら。