「それでは」
「お気を付けて」
かなみに家から帰っていくゆかりを、かなみは笑顔で見送る。そこへ、わたるが日課となった花を確かめにやってきた。
「あれ?あれ、青山ですよね?かなみさん」
ゆかりが帰っていくのを見かけたわたるは、門の前に立つかなみに声を掛ける。
「えぇ…」
「また、何か言われましたか?」
「いいえ…何も…寧ろ…」
そうだと笑うかなみに、わたるはまたゆかりが何か失礼な事言ったのではないかと訊ね、訊ねられたかなみは、何も言われていない、寧ろと笑う。
「何ですか?その笑い」
「女同士の秘密です」
その意味ありげな笑いは何かと訊ねるわたるに、かなみは、女同士の秘密だから教えられないと笑う。
「今日、やっぱり、花出てないですね?」
「あら、忘れてましたわ。花を出すのを」
今日も花が出ていないから、今夜は無理なのかと訊ねるわたるに、かなみは、花を出すのを忘れていたと笑う。
「かなみさん…花を出してくれないと…僕…待ちぼうけです…」
かなみが花を出してくれないと自分はまた闇に紛れて逢いに来ないといけないじゃないかと呟くわたるに、かなみは、そうですねと笑った後、福寿草の鉢植えをわたるに見せる。
「綺麗な花ですね」
「花言葉は永遠の幸せ…最上の愛情です…」
「永遠の幸せと最上の愛情…いい花言葉ですね…」
「そうですね…そう言ってもらえると思ってました…」
「早く中へ…寒かったでしょうから…」
「はい…」
寒かっただろうから早く家の中へ入るよう促すかなみに、わたるは嬉しそうに頷き、かなみの家の中へと入っていく。
わたるの一夜の過ちという試練を乗り越えた睦月の風に福寿草は揺れていた。