花灯篭ー13

「かなみ…さん…」


「はい…」


 自分に向けらえた確かな想いを確かめるように、わたるは、かなみを呼び、その声に、かなみは、しっかりとわたるを見据える。


 その瞬間、わたるとかなみの視線が重なる…そこに言葉はなかった…見つめ合ったわたるとかなみはどちらからともなく唇を寄せ合う。

次第にその口付けは深くなり、許されざるがゆえに燃え上がる想いを乗せた二つの影は揺らめき合って一つに重なる。


「かなみ…さん…あなたが…誰の籠の鳥であろうと…僕は…あなたが…好きです…」


「わたるさん…私も…自分が…西田の籠の鳥であると…わかっていながらも…あなたを…」


 許されない想いであっても、想いを止められないと告げてきたわたるに、かなみは、自分も籠の鳥でありながら、わたるに許されない想いを抱いていると告げる。


 初めて結ばれた時同様、帯を解けば、かなみの白磁のような肌が露わになった。

だが、あの時と違うのは、そこにもう赤い刻印が押されているという事。

その刻印を残した主が誰であるかはわかっていたが、わたるは、そんな事どうでもよかった。

互いに許されざる想いを抱き合っているという事実の前では、それはとても小さな事のような気がしてならなかった。

後々重くのしかかる現実なのだが、いま、お互いの気持ちを知った二人にとって小さく感じられた。


「かなみさん…」


 あの日同様、かなみの口から漏れる甘い吐息に、わたるは、切なくも激しい想いをかなみの身体に伝え続ける。

かなみもまた、わたるの切なくも激しい想いを身体で受け止め、わたるの腕の中で、西田に抱かれている時には出さないような甘い吐息を零し続ける。


「わたる…さん…」


 ただの不倫よりも重くのしかかる現実から逃れるように、かなみは、わたるの愛撫に溺れていく…これは…絶対に許されない恋…それでも、かなみは、わたるを求めてやまない。


 わたるもまた、ただの不倫よりも重くのしかかる罪深き想いをかなみにぶつけていく。

形のいい乳房をまさぐり、白く細い脚に唇を這わせ、かなみが西田に抱かれたという痕跡をたどり、それを自分の痕跡へと変えていく。


 宵闇が深くなるにつれ、わたるとかなみの想いを伝えあう儀式は深くなっていき、月見窓から漏れる月明かりに照らされ、重なり合った影はいつまでも揺らめき続ける。


 朝になれば、辛い現実が待っている…しかし、想いを交わし合ったいまは、この時を大切にしたい。


 かなみが籠の鳥に戻る朝が来るまで、わたるは、自分の腕の中で甘い声で啼くかなみを感じていたいと思っていた。


 かなみもまた、わたるの腕の中で、自由に飛べる鳥のように、自分を曝け出せている事を感じていた。

朝になれば、また籠の鳥だが、いま、この瞬間を大切にしたいと思っていた。

短い夜のひと時だが、自由に羽ばたけるこの瞬間を大切にしたいと思っていた。