花灯篭ー12

かなみが残したメッセージに気付き、かなみの家の前にやってきたわたるは、庭先で新しく咲く赤い牡丹の鉢植えに気付く。

昔、観劇した椿姫なら、赤い花は逢える印だと思いながら、赤い牡丹を眺める。


 その時、玄関が開く音がし、西田がいるかもしれないと思ったわたるは、とっさに隠れる。

しかし、出てきたのは、あの日と同じような牡丹をあしらった色留袖姿のかなみだけだった。


「かなみ…さん…」


「気付いて…くれたのですね…?」


 門の前にかなみが現れた事で、かなみへの想いを抑えようにも抑えきれないわたるに、かなみは自分が残したメッセージに気付いてくれたのかと問いかける。


「西田は…本宅に帰りました…」


 西田の存在を気にするわたるに、かなみは、西田は本宅に帰ったと告げ、わたるを家に中へと案内する。


 かなみに家の中へと案内されながら、わたるは、西田の名残りをかなみが残している事に気付く。

やはり、かなみは西田の籠の鳥なのだという現実に、わたるはやるせない気持ちで一杯だった。


「せっかくの…デザイン画…台無しにして…ごめんなさい…?」


 わたるを家の中へと招き入れたかなみは、わたるにせっかくのデザイン画に文字を書き込んで台無しにしてしまったことを詫びる。


「いいえ…また書き直せばいいだけですから…」


 かなみの謝罪の言葉に、わたるは首を横に振ると、またデザイン画は同じやつを書き直せば済む話だから、気にしないで欲しいと呟く。


あの時同様、手を伸ばせば、抱き締められる距離にいるかなみに、わたるは、かなみを抱き寄せたい、抱き締めたい衝動を抑えるのに必死だった。


「あれは…かなみさん…あなたを…想って…描きました…」


 かなみを抱き締めたい衝動を抑えながら、わたるは、あのデザイン画はかなみを想って描いたデザイン画であると告げる。


「やっぱり…そうだったのですね…西田が言ってました…あれは…恋をしている人間でしか描けないと…」


 わたるの告白に、かなみは、わたるのデザイン画を見た西田が、あれは恋している人間にしか描けないデザイン画と言っていたからもしかしてと思っていたと呟いてきた。


「だから…私も…あなたに…ここに来るよう…メッセージを…あのデザイン画に残したのです…」


 恋をしている相手が誰かは気付いてないかもしれないが、恋をしている事を西田に見抜かれたことに驚くわたるに、かなみは自分もわたるの切ない恋心に応える決心をして、デザイン画にメッセージを残したのだと呟く。


その言葉に、わたるは、かなみの自分への確かな想いに気付く。