女神の悪戯ー16

「一緒に居たのは認めるが、誤解なんだ」
 
 一緒に居るところを見た保護者が居る以上隠し立てはできないと思った由紀夫は、雪菜と一緒に居た事は認めるが、誤解で、雪菜は高校時代の後輩で、ただそれだけの事なのだと言い続ける。
 
「それって…初恋の人じゃないでしょうね…?」
 
「…」
 
 雪菜が初恋の人じゃないのかと訊ねられた由紀夫は、何も言えなくなった。確かに初恋の人その人だったからだ。
 
  バチーン
 
「浮気よりもたちが悪いわ」
 
 何も言わず立ち尽くす由紀夫に、雅美は由紀夫の頬を張ると、ただの浮気よりもたちが悪いと泣き出した。由紀夫にとって初恋の相手は、雅美にも侵せない聖域…それが雅美にもわかっているからこそ余計に雅美は苛立つのである。
 
「佳奈美に何て言うの?佳奈美が聞いたらと思うと…あぁ…」
 
「だから誤解だって…」
 
 担任と父親が逢引きしていたなんて、娘の佳奈美が知ったらどうするのかと泣き続ける雅美を、由紀夫は宥めすかすように誤解だと言い続ける。
 
「でも、初恋の人なんでしょ?」
 
「そうだけど…向こうにも家庭があるのだから、そんな事をするわけがないだろ」
 
 雪菜は初恋の相手その人なのだろうと問い詰められ、由紀夫は雪菜が初恋の相手だと認めた後、雪菜にも家庭があるのだから、その家庭を壊すような事をするわけがないだろうと言い続ける。
 
「それがたち悪いって言っているのよ」
 
 由紀夫の言葉に、雅美は取り乱したようにそういうところがたち悪いって言うのだとまた泣きはじめる。今度は由紀夫が何を言っても無駄だった。
 何を言っても泣き続ける雅美を、由紀夫は宥めすかしながら、しばらく雪菜に逢えないなぁと考えていた。今逢えば噂を肯定するようなもの。噂の矢面に雪菜を立たせられないと、由紀夫は考えていた。しかし、逢えないからこそ募る想いは、この数週間でまざまざと思い知った。思い知ったからこそわかる雪菜への大切な想い。これは何としても守らなければならない。
 
 その夜、雅美が自分を抱いて欲しいと言ってきた。由紀夫はその気になれなかったが、初恋の人を抱いたからもう私の事は抱けないのかと言う雅美に、由紀夫は渋々応じた。男という者は哀しいもので、その気がなくても女性に反応するのである。それに満足し、眠る雅美を見ながら、由紀夫はやはり雪菜の事を考えていた。雪菜はこんな風に責めだてられてはいないだろうか?無理矢理抱かれたなんて事になっていないだろうかと。由紀夫は雪菜の身を案じるしかなかった。