愛しき罪ー39

 時刻は午前二時…人は丑三つ時と呼ぶ…


そんな時間に重なり合う影がある事を人は知っているだろうか…?


「(これが…弓月さんの本当の指の感触で…そして…私は…いま…弓月さんの腕の中にいる…)」


 自分の身体を掠める弓月の指の感触と腕の感触と胸と唇の感触を感じながら、朱里は、深い闇の中に何かを掴みたいとばかりに、自分の手を必死に伸ばす。


あれほど憎くてたまらなかった弓月の指や手や胸が、自分の身体を掠めている事が信じられないとばかりに、深い闇の中へと手を伸ばし続ける。


「朱里…?」


 深い闇の中へと手を伸ばす朱里に気付いた弓月は、深い闇の中に伸ばされた朱里の手を掴み、その手に唇を寄せる。


「なんでもありません…ただ…怖いだけです…」


 自分が深い闇の中へと伸ばした手に唇を寄せる弓月に、朱里はなんでもないと呟き、続けてただ怖くなっただけだと呟く。


「怖いって…何が…?」


「わからないけれど…怖いのです…」


 自分に抱かれる事の何が怖いというのかと問いかける弓月に、朱里は、なぜだかわからないが、怖いのだと答える。


朱里にはその答えはわかっていた…いままで損得なしで異性に抱かれた事などなかった…しかし…いまは…損得を考える事無く弓月に抱かれている…それが底知れなく怖くてたまらないのだ。


「朱里…何も怖がらなくてもいいよ…僕に…気持ちを預けるんだ…」


 朱里が何かに怯えている事を知った弓月は、大丈夫…何も怯える事はないから、自分に全てを預けるようにと囁きかける。