深い闇の中をひた走った車は、静かな湖のほとりで停まる。
深い闇の中に包まれる湖は、静かでありながら、どこかさらに大きな闇へと誘っているようだった。
「いい未来…浮かんだかい…?」
湖のほとりに車を停めた弓月は、朱里にここまで来るまでの道中、いい未来が見えてきたかと問いかける。
「ううん…まだ浮かばないわ…悲観的思考だから…私…」
弓月の問いかけに、朱里は、首を横に振りながら、自分はなんでも悲観的に考える方だから、まだ未来について何も浮かばないと答える。
「実を言うと…僕もだ…朱里しかいらないはずなのに…朱里を幸せにできる未来が思い浮かばない…」
朱里からの答えを聞いた弓月は、自分もそうなのだと答え、続けて朱里を幸せにできる未来が思い浮かばないのだと呟く。
「幸せなら…ある…弓月さんに…慈しまれた時から…」
朱里を幸せにできる未来が思い浮かばないと呟いた弓月に、朱里は、幸せなら、弓月が自分を慈しんだ時から、幸せなのだと答える。
最初は弓月によって気付かされた恋が弓月なしで育っていく事に戸惑ったけれど、弓月に慈しまれた夜から幸せなのだと、朱里は呟く。
「じゃあ…どうして…あの夜…あんな事…したの…?」
「幸せに包まれたままで逝きたかったから…」
どうしてあの夜、幸せを感じていながら、自らの命を絶とうとしたのかという弓月の問いかけに、朱里は、幸せに包まれたままで逝ってしまいたかったからなのだと答える。
弓月を感じられたあの夜の幸せを噛み締めたまま逝きたかった…自分にとってはあの時が最上の幸せだと思ったからだと朱里は呟く。