一方…朱里はというと、順子の予想していた通りに行きずりの恋に身を投じていた。
行きずりの男と別れ、ついでにもらっておいた万札を見つめる。
人はこれを売春と呼ぶが、朱里にしてみれば損得なしでセックスする方がおかしいと思っていた。
結婚も損得あるのだろうか…?朱里は弓月の気持ちがわからなくて戸惑っていた。
率直に愛妻家だと言っていたのに、淡々と仕事しているだけだと言っていたのに、自分の私用の携帯に掛けてきて、ドライブなんかに誘ってくる。
「(弓月さん…私にどうしろと…言うの…?)」
愛妻家だとか淡々と仕事しているだけだと言っていたかと思えば、自分が教えた携帯に電話を掛けてきたり、ドライブに誘ってくる弓月に、朱里は戸惑いしか感じられなかった。
順子の言う通り、恋は理屈じゃないのかもしれない…自分の中に蠢く情念の恐ろしさを朱里は感じずにはいられなかった。
自分の中で渦巻くドロドロした情念…行きずりの恋に身を投じても消えない情念…朱里は、自分が弓月に何を求め、弓月から何を求められているのかわからなくなっていた。
「朱里ちゃん…?」
「浜田さん…」
たまたま自分が教えている剣道の保護者たちと飲んでいた浜田は、宵闇の中に朱里が居る事に驚き、朱里もまた弓月に続いて浜田にも会う今日は厄日かもしれないと思っていた。
「どうしたの?諭吉さん握りしめて」
「別に…これからどうしようか考えていただけ…」
哀しそうな顔で万札を握りしめていた朱里を見た浜田は、朱里にどうしたのかと訊ね、訊ねられた朱里は、別に何もないけれど、これからどうしようか考えていただけだと答える。
その答えの裏に弓月が絡んでいる事を朱里は言わずとも、浜田は見抜いていた。
弓月と何かあったのだと浜田は見抜いていた。