月光花ー6

数日後の夜…この日もわたるは、花がなかったことを確かめたのにも関わらず、かなみの家の裏手にある金木犀の木のそばで佇んでいた。


「(かなみさん…やっぱり…来てしまいました…)」


 金木犀の木のそばで佇みながら、わたるは、一目でいいからかなみに逢いたいという想いを抱き締めていた。


 危険な真似はするなと、かなみに言われていたが、わたるは、抱き締める事が叶わなくても、一目でいいから、かなみに逢いたかった。


 その時、西田の後を歩くかなみを見つける。かなみもまた、金木犀の木のそばで佇むわたるを見つけていた。近付くことも声を上げる事も許されない中で、かなみは、西田と共に部屋に消え、わたるは、それを見つめる。


「(これから…あなたは…)」


 これから始まる出来事を予感しながらも、わたるは、その場を動けず、金木犀の木のそばに佇み続ける。


「わたるさん…」


 あれから、一時間ほどして、かなみが、金木犀の木のそばにやってきた。


「かなみさん…」


 かなみが近づいてきた事がわかったわたるは、足音を消しながら、かなみに近寄る。


「どうして…こんな事…」


 わたるに近寄ったかなみは、わたるに、どうしてこんな危険なまねをするのかと問いかける。


「社長は…?」


「今は、眠ってます」


 西田はまだいるのかと問いかけたわたるに、かなみは、西田はいま眠っていると答える。眠ってはいるが、いつ起きるかわからない状態で、かなみは、わたるがまだいるであろう、金木犀の木のそばにやってきたのだ。


「かなみさん…」


 西田が家の中にいるという極めて危険な状態の中で、わたるは、かなみを抱き寄せ、想いの限りに抱き締める。


「西田は…泊まる事はありません…だから…」


「わかりました…帰ったら…またここに来てください…」



 かなみは、西田がここに泊まる事はないとわたるに伝え、わたるも、ここで西田が帰るのを待っているから、帰ったらまたこの金木犀の木のそばに来てほしいと呟く。


「きっとですよ…?」


「わかってます…」


 西田が帰ったら、きっとこの金木犀の木のそばに来てほしいと呟くわたるに、かなみは、西田が帰ったら、必ず金木犀の木のそばに来ると答える。