数日後の夜…この日もわたるは、花がなかったことを確かめたのにも関わらず、かなみの家の裏手にある金木犀の木のそばで佇んでいた。
「(かなみさん…やっぱり…来てしまいました…)」
金木犀の木のそばで佇みながら、わたるは、一目でいいからかなみに逢いたいという想いを抱き締めていた。
危険な真似はするなと、かなみに言われていたが、わたるは、抱き締める事が叶わなくても、一目でいいから、かなみに逢いたかった。
その時、西田の後を歩くかなみを見つける。かなみもまた、金木犀の木のそばで佇むわたるを見つけていた。近付くことも声を上げる事も許されない中で、かなみは、西田と共に部屋に消え、わたるは、それを見つめる。
「(これから…あなたは…)」
これから始まる出来事を予感しながらも、わたるは、その場を動けず、金木犀の木のそばに佇み続ける。
「わたるさん…」
あれから、一時間ほどして、かなみが、金木犀の木のそばにやってきた。
「かなみさん…」
かなみが近づいてきた事がわかったわたるは、足音を消しながら、かなみに近寄る。
「どうして…こんな事…」
わたるに近寄ったかなみは、わたるに、どうしてこんな危険なまねをするのかと問いかける。
「社長は…?」
「今は、眠ってます」
西田はまだいるのかと問いかけたわたるに、かなみは、西田はいま眠っていると答える。眠ってはいるが、いつ起きるかわからない状態で、かなみは、わたるがまだいるであろう、金木犀の木のそばにやってきたのだ。
「かなみさん…」
西田が家の中にいるという極めて危険な状態の中で、わたるは、かなみを抱き寄せ、想いの限りに抱き締める。
「西田は…泊まる事はありません…だから…」
「わかりました…帰ったら…またここに来てください…」
かなみは、西田がここに泊まる事はないとわたるに伝え、わたるも、ここで西田が帰るのを待っているから、帰ったらまたこの金木犀の木のそばに来てほしいと呟く。
「きっとですよ…?」
「わかってます…」