翌日…
かなみは、家の裏手の金木犀のそばに佇んでいた。前にわたるが月の闇に紛れて逢いに来てくれた事を思いだしながら。
「(わたるさん…私は…あなたを責められません…待たせてばかりだったから…)」
金木犀を見つめながら、かなみは、月の闇に紛れてしか逢う事ができない恋をわたるにさせてしまった自分が、わたるの一夜の過ちを責める事なんてできないと心の中で呟く。
「わたるさん…ごめんなさい…」
金木犀の影にわたるの幻を見ながら、かなみは、嘘をついて突き放してしまった事を詫び続ける。
「謝るくらいなら…嘘つかないでください…」
「(わたるさん?)」
後ろから聞こえてきたわたるに似た声に、かなみが振り返ると、そこには、わたるが立っていて、目の前にわたるがいる事が信じられないかなみは、驚きを隠せないままわたるを見る。
「どうして…ここに…?」
「玄関からです…家中探しても…かなみさんがいないから…」
どうしてわたるがここにいるのかと訊ねるかなみに、わたるは家中探してもいないから、探していたのだと答える。
「そうではなくて…」
「言ったじゃないですか…何度でも来るって…」
もう家には来るなと言ったじゃないかと問いかけるかなみに、わたるは、かなみに近寄ると、昨日、かなみと話ができるまで何度でも来ると言ったはずだと答える。
「かなみさん…今日からは逃がしませんよ…?」
「えっ…?」
今日からかなみを逃がさないというわたるの言葉に、かなみは、驚いたようにわたるを見る。今日はではなく今日からとわたるは言ったと。
「かなみさん…」
「やめてください…西田が来ます…」
「社長は、長期出張という名の家族旅行中です」
かなみを抱き寄せたわたるに、西田が来るからやめるよう呟くかなみに、わたるは、西田なら長期出張という名の家族旅行中なのだろうと笑いかける。
「そして、僕は、長期休暇中です」
なぜ西田が家族旅行に行っているのを知っているのかという表情を浮かべるかなみに、わたるは、調べるくらい造作もないことだと笑い、そして、自分は長期休暇中だと笑いかけた後、わたるは、かなみを抱き上げると、かなみを家の中へと運んでいく。いまからたっぷりと自分に嘘をついたことを後悔させてあげると笑いかけて。