花灯篭ー4

運命の再会は程なくして訪れた。ある五月の午後、わたるは、あの茶会の日に、かなみに着物を見せて欲しいと頼み込み、それを了承してくれたかなみの家を訪ねることになった。桜の花びらが風に舞うのを見越したように、桜を模した色留袖で茶会に参加していたかなみの事だから、きっと綺麗な着物を持っているに違いないと、わたるは思っていた。
 教えられた住所を辿っていくと、住宅街から少し離れたところにひっそりとその家はあった。
「ここだな…」
 かなみの家に前に立ったわたるは、茶会の時に感じた雰囲気そのままの家の佇まいに、かなみの決して驕らない雰囲気そのままだと思った。呼び鈴を鳴らして、主が出てくるのを待っていたわたるは、庭に咲く一輪の紅い牡丹に目を奪われる。決して驕らず咲く牡丹に、かなみの影を重ねていた。
「すいません…お待たせして…」
 わたるが家の呼び鈴を鳴らして、しばらくして家の主であるかなみは、門の前に現れた。その姿は、牡丹を模した色留袖姿だった。
「こちらこそ…無理を言ってすみません…」
 門の前に現れたかなみの姿に心を奪われながらも、わたるは、持っている着物を見せて欲しいという自分の勝手な願いを聞き入れてくれて申し訳ないと呟く。
「いいえ…私が役に立てるなら…構いません…」
 わたるの呟きに、かなみは、自分が持っている物が役に立てるのなら、構わないと答え、わたるを家の中のへと案内していく。
 わたるの思った通り、かなみの持っている着物や帯はもちろんの事、小物に至るまで、洗練された物ばかりだった。
「素晴らしい…やはり…僕が思った通り…洗練された物ばかりだ…」
「そんなに…褒めないでください…本当に…安物ばかりなのですから…」
 西陣織でも京友禅でも加賀友禅でもない着物や帯や小物に感嘆の声を上げるわたるに、かなみは、本当に安物だからそんなに褒めないで欲しいと呟く。
「そんな事ないです…たとえこれが…本当に安物だとしても…これだけ洗練された物ばかり持っているあなたは素晴らしい…」
 謙遜を続けるかなみに、わたるは、たとえこれが本当に安物だとしても、これだけ洗練された物を持っているかなみの目は素晴らしいと感嘆する。
「庭先の牡丹といい…着物や帯や小物といい…あなたの…決して驕らない…雰囲気そのままです…」
「買い被りすぎです…私は…そんなに素晴らしい人間ではありません…」
 着物や帯や小物に飽き足らず、庭先の牡丹や自分の人柄を褒め始めたわたるに、かなみは、嬉しいと思いながらも、自分はそんなに素晴らしい人間ではないから、買い被らないで欲しいと呟く。