花灯篭ー3

その日の茶会は何事もなく終わり、わたるは茶会の作法はわからないままだったが、大きな失態を犯すことなく終えられてほっとしていた。
「あの…」
 わたるは、簡単な作法を教えてくれたかなみに礼を言おうとかなみに近寄る。
「はい…あぁ…皆川さん…初めての茶会は…どうでしたか…?」
「あなたのおかげで…大きな失敗をすることなく終えられました…」
 初めて参加した茶会の感想をかなみに訊かれたわたるは、かなみが簡単な作法を教えてくれたおかげで大きな失態を犯すことなく、無事終えられてよかったとかなみに礼を言う。
「それは…よかったです…お役に立てて光栄です…」
 かなみのおかげだと言うわたるに、かなみは、あんな簡単な作法しか教えていないのに、礼には及ばないと笑った後、役に立ててよかったと笑う。
「あの…失礼承知で…お願いしたいのですが…あなたの…お着物…見せてもらえないでしょうか…?」
 これがただ一回きりの縁にしたくと思ったわたるは、かなみに、持っている着物を見せて欲しいと告げる。
「私の…着物ですか…?安物ばかりですよ…?」
「そんな事ないです…着物に詳しくない僕でも…すぐに安物じゃないってわかりました…だから…見せて欲しいのです…デザインをしていく上で参考にしたいのです…」
 自分が持っている着物はどれも安物ばかりで、見せる程のものではないと言うかなみに、わたるは、謙遜しても、着物に詳しくない自分でもそれなりの値段がする物だとわかるのだから、自分がデザインをしていく上での参考にしたいと頼み込む。
「やはり…デザイナーをしているだけあって…服を見る目は確かなのですね…」
「あなたほどのセンスはありません…現に…僕はあなたに声を掛けてもらうまでは…浮いていたのでしょうから…」
 デザイナーをしているだけあって服を見る目が確かだと呟いたかなみに、わたるは、自分はかなみほどのセンスはないと答え、かなみに声を掛けてもらうまでは、場に浮いた存在でいたのではないかと呟く。
「浮いていたというより…言葉が通じるか…だと思います…」
「この背丈と顔立ちですか…?」
「はい…私は…好奇心旺盛なところがあるから声を掛けましたけど…他の方々は言葉が通じなかったらどうしようって…二の足を踏むと思います…。」
 自分の顔立ちや背丈のせいで浮いていたのかと問いかけるわたるに、かなみは、一目見ただけでは生粋の日本人には見えないから、好奇心旺盛な自分以外は言葉が通じるかどうかで二の足を踏むだろうと笑いかける。
 わたるとかなみの距離がまた一段と近付いたが、それは、禁じられた恋への一歩を進んだだけでしかないことをわたるとかなみは気付く由もなかった。