花灯篭ー6

「皆川さん…?」


 突然の事に、かなみは戸惑いを隠せなかった。

確かに、わたるの日本人離れした顔立ちを見た瞬間、かつてないほどに胸がときめいたが、わたるがそんな行動を取るとは考えてもいなかった。

それに、自分にはという思いがあった。恋を恋と気付かぬかなみは、わたるの突然の行動に戸惑い続ける。


「あなたが…好きです…」


 かなみを抱き締めたわたるは、かなみに、茶会で出会った時から胸に秘めていた言葉を口にする。

かなみに想う人がいるとか考えたりもしたが、かなみのきちんと結われた髪のうなじにかかる後れ毛とうなじを見ていたら、想いを言葉にせずにはいられなくなったのだ。


「着物を見せて欲しいなんて…ただの口実です…本当は…あなたに…もう一度逢いたかったから…」


 自分の突然の行動と告白に戸惑い続けるかなみに、わたるは、着物を見せて欲しいというのはただの口実で、本当はかなみと一度きりの縁にしたくなかったからだと呟く。


「私も…皆川さんとは…一度きりの縁には…したくありませんでした…だから…」


 わたるの告白に、かなみは、自分もわたるとの縁を一度きりにしたくなかったから、着物を見せて欲しいという願いを聞き入れたのだと呟く。


「でも…私には…」


「想う人が…別にいらっしゃるのでしょう…?」


「いえっ…」


 想う人が別にいるのだろうとわたるに問いかけられたかなみは、自分がどういう立場なのかわかってはいたが、それをわたるに告げる事はできなかった。告げれば、縁が切れてしまいそうで怖かったからだ。


「他に想う人がいても…構いません…どうか…僕の想いを遮らないでください…」


 自分の問いかけに何か言おうとしたかなみに、わたるは、他に想い人がいても構わないから、どうか自分の想いを拒まないで欲しいと呟く。


「皆川さん…」


 わたるの切実な言葉に、かなみは、どう応えていいかわからなくなった。この想いが恋だとしても、自分は恋を許される立場ではない。

しかし、わたるの言葉に、胸をときめかせている自分もいる。これが許されざる想いであっても、胸のときめきを否定することはできなかった。


「綾瀬さん…いえっ…かなみさん…茶会で見かけた時から…僕は…あなたに…恋をしてしまったのです…」


 引き剥がすこともせず、ただ黙って自分の腕の中に納まるかなみに、わたるは、茶会で初めてかなみを見た時からの想いを告げる。

これが、禁じられた想いでも何でも構わない…この胸が燃えたように熱くなる想いを否定できなかった。

禁じられた想いが重なった瞬間、わたるとかなみの影も重なり合い、揺らめき合い、運命の禁じられた恋に押し流されていく。