愛しき罪ー16

「時間…来たみたいなので…」


「そうか…じゃあ…行こう…」


 時間を知らせる電話が鳴り、それを受けた朱里に促された弓月は、朱里に部屋を出ようと声を掛ける。


「今日は驚いた所もあったけど、楽しかったよ」


「またのご贔屓お待ちしてます」


 弓月の友人たちも集まり、朱里と弓月は、友人たちにも差し障りのない会話を交わし合いそれぞれの車に乗り込む。


「めぐみさんのお客さん…凄くイケメンだったですね…?」


 待機所に帰る車中であずさと名乗るデリヘル嬢が、朱里に朱里を指名したお客つまり弓月が凄いイケメンだったと呟いてきた。


「そうかな…?左手に指輪してあったからそんなに気にならなかったわ…」


 朱里は、弓月の顔立ちは誰もが認める端整な顔立ちだと認識しながらも、とぼけるような返答をする。


「え~!あの人…結婚しているんだ…残念…でも…ああいうイケメンと付き合いたいなぁ…」


 朱里から弓月が既婚者だと知らされたあずさは、少し残念がりながらも、弓月のようなイケメンと付き合えたらいいなと呟く。


「イケメンには彼女や奥様が付き物。風俗嬢の出る幕はないわ」


 あずさの呟きに、朱里は、弓月のような端整な顔立ちをした男性には彼女や奥さんがいるのだから、風俗嬢の自分達が出る幕はないのだと返す。


 そう…自分の出る幕はない…弓月の人生という舞台に、自分が躍り出る幕はないのだと自分に言い聞かすように車窓に視線をやり、車窓に伝う雨粒を見つめる。


あぁ…自分の心模様と似た天気になってきたなと思いながら、車窓を伝う雨粒を見つめる。