「さっ…そんなところに突っ立てないで座ったらどうかしら…?」
ふらりと立ち寄った店に朱里がいた事に驚き、その場に立ち尽くす弓月に、順子は飲む気があるのなら立ち尽くしてないで座ったらどうかと声を掛ける。
「すみません…じゃあ…失礼します…」
順子にカウンターの席に座るよう促された弓月は、順子に促されるまま朱里の隣に座る。
「順子さん…私…帰るね…」
「あらっ…まだいいじゃない…二人でこのイケメンさんを眺めて飲みましょうよ」
弓月が現れた事で帰る用意を始めた朱里に、順子はまだ宵の口なのだからいいじゃないかと声を掛け、朱里が帰るのを引き留める。
「須崎さん…僕って…そんなに…目障り…?」
「別に…帰りたくなったから帰るだけよ…」
自分がそんなに目障りなのかと問いかける弓月に、朱里は帰りたくなったから帰るだけだと答える。
「朱里ちゃん…知り合いなの…?」
「さっきまで話していたイケメン看護師さんよ」
弓月が店に入って来た時の様子からしてまさかと思いながら、朱里に知り合いなのかと訊ねる順子に、朱里はさっきまで話をしていたイケメン看護師さんがこの人なのだと答える。
「なら、尚更帰る事ないじゃない…」
「気分を変えたいの…ごめんね…後はお願いします…順子さん…」
好きな人が目の前にいるなら尚更帰る事はないのではと声を掛ける順子に、朱里は、気分を変えたいから帰ると答え、順子に弓月を託し、帰っていった。
帰っていく朱里を見送りながら、順子はやはり情念と向き合うには朱里はまだ幼すぎるのかもしれないと考えていた。