花灯篭ー11

 絶望のデザイン画となったデザイン画を見ながら、わたるは、運命の悪戯と片付けるには辛すぎる現実と闘っていた。

わかっていたが、こんな近くにかなみを囲っている人間がいるとは思ってもいなかった。社内ではかなみの噂で持ちきりだった。

社長が白昼堂々愛人を連れてきたという噂で持ちきりだった。

かなみを想って描いたデザイン画は、絶望のデザイン画となり変わり、許されざる想いだけが残るデザイン画と成り果ててしまった。


 恋をしてはならない人と知りながら、恋をしてしまった自分…いっそ…不倫と呼ばれる関係の方が楽になるような気がしてならなかった。


「(かなみさん…なぜ…よりにもよって…社長の囲われ人に…)」


 デザイン画に残されたかなみからの密やかなメッセージにまだ気付かないわたるは、一番許されない存在であると知ったかなみに問いかける。


「わたる。よかったね。デザイン通って」


 わたるの心を知る由もないゆかりは、社長にわたるのデザイン画が通った事を素直に喜んでいた。


「うん…ありがと…」


 デザインが通った事を素直に喜ぶゆかりに、わたるは空返事を返す。デザインが通っても、これが商品化されても、買い与えるのはかなみを囲っている西田であって、かなみ自身ではない。

その現実が冷たく突き刺さり、わたるは終始上の空だった。


 その姿に、ゆかりが気付かぬはずがない。自分が好意を抱いている人の想い人が、社長の愛人なんて現実をゆかりは受け入れられなかった。


「(わたる…よりによって…そんな人を好きになるなんて…)」



 上の空で仕事をするわたるに、ゆかりは自分の入り込める余地はもうないのかと問いかける。


「(あれ…?デザイン画に…変な文字が…?えっと…牡丹がまた咲いた…って…かなみさん…)」


 絶望のデザイン画と成り果ててしまったそのデザイン画をしまおうとしたその時、書いた覚えのない文字が混じっている事に気付いたわたるは、それがかなみからの密やかなメッセージであることにすぐ気付いた…牡丹はあの日…散ったはずなのに…また新しく植え直してくれたのだろうか…?どちらにしても、かなみが残してくれた密やかなメッセージに、わたるの心に一縷の希望が湧いてきた。


「(ちょっとだけ…帰りに…のぞいてみよう…)」


 今日、逢える可能性はないかもしれないが、仕事帰りにちょっとだけ新しく咲いた牡丹を見てみようとわたるは心に決める。


 やがて、終業時刻となり、わたるはかなみが残したメッセージを頼りに、逸る気持ちを抑えながら、かなみの家へと急ぐ。


 その姿を、ゆかりが切なそうに見ている事にも気付かないほどに、わたるの心は、かなみの残したメッセージで一杯だった。