白い闇-19

人里離れた邸宅から何とか帰り着いた源太は、心配していたと駆け寄る母親の横をすり抜け、自分の部屋に籠り、迷い込んだ時に聞こえてきた碧の声に似た艶やかさを含んだ嘆願の声に、思いを馳せる。


「(あの声…って…あれだよな…)」


 源太とて何も知らないわけじゃない…だが、実際にそんな声に直面するのは初めてで、碧の声に似た艶やかな声に、源太は、あの声が碧だとしたら、その声を出させている相手が誰なのかが気になって仕方なかった。


「(根本碧…さん…一体…君は…どんな生活をしているんだい…?)」


 碧に似た艶やかな声に魅入られた源太は、声の主が碧自身であったならという考えが頭から離れず、碧が普段どんな生活を送っているのかが気になって仕方なくなった。


碧が源太に希望を抱きながら、雅彦との地獄のような生活を送っているなど知る由もない源太は、碧に抱き始めた淡い恋心に浸り続ける。
碧を包む白い闇など知る由もなく、源太は碧に抱く淡い想いに浸るので精一杯だった。


「(誰か…助けて…)」


 碧の声に似た艶やかな声は、源太の耳には助けを求める声にも聞こえて、あの声が碧だとしたら、自分は碧に何ができるのだろうという思いも湧き上がってきたのも事実で、この淡い想いは、碧に届く事はあるのだろうかという思いに駆られる。


 同級生たちは何かを隠している…碧にとって雅彦は何なのだろう…?雅彦に耳打ちされた時に見せた碧の硬い表情…それが何なのか…?一緒に居る事を当たり前にされている碧と雅彦…この町は何かを隠している…源太は直感せずにはいられなかった。


碧と雅彦は、ただの遠縁の関係ではないと…源太は直感せずにはいられなかった。


「(碧さん…僕に…何が…できる…?)」


 徐々に見え始めた碧を包む白い闇に、源太は、心の中で碧に、自分にできる事は何なのかと問いかける。


 碧と源太…許されない恋だと知らないまま、距離だけは徐々に縮まり始めていた。