「夜分遅くに…すみません…」
その夜、源太は道に迷い、微かな灯りを頼りに人里離れた邸宅に辿り着いていた。
そこの住人が誰とも知らずに、邸宅の扉を叩く。
「碧…ここで待ってろ…」
邸宅の中に届く源太に似た声に、身を固くする碧に、雅彦は、この部屋で待つよう言い放つと、扉の方へと歩き始める。
「どちら様?」
「すみません…最近引っ越してきた…須本と言います…道に迷ってしまって…」
碧との時間を邪魔された不快感を露わにしながら、どちら様と訊ねる雅彦に、源太は、道に迷ってしまった事を告げる。
「この先は行き止まりだよ…引き返したら…また人里に戻れるはずだよ…」
「わかりました…ありがとうございます…」
この邸宅で起きている事に気付かない源太は、引き返せば人里に戻れると答える雅彦に、礼を述べ、来た道を引き返していく。
「迷子の主は…君のナイトだったよ…碧…」
「…」
迷子になっていたのは、他でもない源太であった事を皮肉る雅彦に、碧は、無言で雅彦を見る。
この人はなぜ…ここまで…自分の希望を奪うのだろう…?どこまで…絶望を味合わせるのだろうか…?
碧の胸に幾度となく過る絶望…雅彦と過ごす地獄の時間…自分はなぜ…ここまで…雅彦の言いなりになるしかないのか…もう…この男に蹂躙されて四年になる…
碧の脳裏を包む白い闇は、今夜も碧を雅彦の蹂躙から逃れさせてはくれなかった。