「碧…あの少年…ナイトになれるのかな…?」
まだ羞恥に震える碧に、雅彦は、碧を冷たく見下ろしながら、源太を自分から救ってくれるナイトだと思ったりなどしていないかと冷たく問いかける。
「思って…なんか…いません…」
雅彦の冷たい問いかけに、自分の心の内を見透かされたと思った碧は、源太を雅彦の狂気に晒すまいと、源太を特別に思ってなどいないと答える。
「身支度を整えたら…誰にも見つからないように…校舎に戻るんだ…碧…」
「わかって…います…」
身支度を整えたら誰にも見つからないように授業に行けと告げる雅彦に、碧は、毎日の事だからわかっていると答える。
誰にも見つかりたくないのは碧も同じだ…まして…源太には見つかりたくない…碧は、身支度を整えると、人気のない生物準備室を後にし、何事もなかったかのように授業を受ける。
明日は…土曜日…今夜どんなに雅彦に甚振られても、源太に逢う事はない。
しかし、碧の心の中が源太に助けを求める。早く気付いて…私を助けてと…。
「碧…帰るぞ…」
碧が心の中で源太に助けを求めていると、背中から聞こえてきた声に、碧はビクッと震えた後、帰り支度を整える。
「いま…行きます…」
帰り支度を整えた碧は、声の主である雅彦に、いま行くと答え、雅彦の後ろを歩き始める。
碧と雅彦が住んでいる家は、人里離れた場所にあり、誰も近寄りたがらない場所にあった。
住民が近寄りたがらないのには訳がある…その家は、十七年前に、ある少女が数人の男に凌辱され、子供を生み落とし、自らの命を絶った家でもあったからだ。
そんな家に住んでいる碧と雅彦を、住民たちは好奇の目で見ていたし、碧と雅彦が遠縁でも何でもない事を町の大人たちは知っていたのだった。