少女を襲った悲劇から十七年後…
「(田舎にも程がある…)」
須本源太は、駅に降り立った瞬間、広がる田園風景を見て思った。
源太は、脱サラして田舎に移り住むと言った両親と共に、この田舎町に引っ越して来た。
「(何が…原点回帰だ…俺は…山の上の高校に通う羽目になったんだぞ…)」
セミリタイアして、田舎に移り住むと言った両親に、田舎に住むのもいいものだと言われた源太は、自分達はセミリタイアしていいかもしれないが、自分は山の上にある高校に通う羽目になったのだと、心の中で吐き捨てる。
「散歩してくる」
引っ越しの荷物を片付ける両親に、源太は散歩をしてくると言い残し、新しい家の周辺を散策する。
しかし、どこを見ても目新しいものはなく、川を遡るように歩き続ける。
「誰?」
歩き続ける事数分、ある滝へと辿り着いた源太は、滝壺で水浴びをしていたと思われる少女に、源太は声を掛けられる。
その少女は儚げで、源太は、幻を見ているような気分に陥った。
「怪しい人間じゃないよ。僕は須本源太。今日、この町に引っ越してきたんだ」
幻のような少女に誰かと訊ねられた源太は、怪しい人間じゃないと自己紹介する。
「私は…根本碧…」
怪しい人間じゃないと自己紹介した源太に、幻のような少女は自分の名を名乗る。
根本碧…この少女との出会いが源太の憂鬱だった生活を一変させる事に源太はまだ気付いていなかった。
助けてと呟いた碧の声にも気付かないほどに、源太は碧に魅入られていた。