平安恋奇譚ー3

 それからが早かった。


泥だらけの身体を洗われ、姫君としての所作や言葉使いや教養を教え込まれ、一朝一夕で覚えられるわけではないが、やらないよりはましだという事で教え込まれた。


 寝不足でクマなどできたらいけないというが、寝慣れない布団で寝たから、結局、寝不足でクマができ、化粧でごまかした。


 そして、約束の夜。辺りが暗くなり、魔物の王と名乗る者がやって来た。


「では、約束通り姫君を貰い受けた。さらばだ」


 魔物の王と名乗る者は、まりを抱き上げると、周囲の人間に、約束通り姫君を貰い受けたと告げ、闇の中へと消えていった。


「(なんか…暗くて…前が見えない…)」


 炎の次は闇の中で、まりは、自分がどこかに転送されているのはわかるが、どこへ向かっているのかさっぱりわからなかった。


 すると、闇が消え、屋敷の中らしいところに辿り着いた。


「きゃぁ」


 闇の中から、いきなり明るいところに連れてこられたまりは、目が慣れなくてバランスを失っていたのに、いきなり床に突き飛ばされた。


「とんだ…茶番だ…」


 魔物の王と名乗る者は、まりを見下ろしながら、とんだ茶番劇だと笑う。


「茶番とは…なんですか…?」


 自分が身代わりだなんて知られたくないまりは、何が茶番だというのかと魔物の王と名乗る者に訊ねる。


「あの姫君が帝のもとへと入内することが決まっているのは知っていた…身代わりを立てると思っていたが…こっちに身代わりを寄越すとはな…」


 まりの問いに、魔物の王は、まりが身代わりである事くらい見通していると笑う。