平安恋奇譚ー2

「ご家族には私たちから事情を話します。とにかく、時間がないのです。魔物の王と名乗る者との約束の期限は明日なのです」


 家族に何と言えばいいのかと戸惑うまりに、魔物の王との約束の期限が明日だから、時間がないのだと告げる。


「まり殿、ごめん」


 都人は、まりの手を取ると小刀でまりの親指を切り付け、持っていた紙にその親指を押し付ける。


「え?何?何なの?」


 いきなり親指を切り付けられ、無理矢理血判を押され、何が何だかわからないまりは、戸惑うが、まりが無理矢理押させられた血判が紙にしみ込んだ瞬間、まりの周囲を炎のようなものが襲い、まりは、その場から消えた。


「ここ…どこ…?」


 炎のようなものに包まれたと思ったら、見知らぬ所へ運ばれてきたまりは、ここが都の中心で高貴な人の屋敷だというのはわかるが、いきなりの事に混乱していた。


「ここは、右大臣の屋敷で、私は、陰陽師の柚木尚通だ」


「じゃあ…私を…ここに連れてきたのは…あなたね…?」


 目の前にいた陰陽師と名乗る柚木から、ここが右大臣の屋敷であることを教えられたまりは、柚木がここに連れてきたのかと問いかける。


「あまり使わぬ秘法だ。都の命運がかかっているからな」


まりの問いに、柚木は、人を転送させるのはめったに使わぬ秘法で、都の命運がかかっているから使ったのだと答える。


「とにかく、時間がない。あなたには、姫君の身代わりとしての教育を受けてもらう」


 いきなりの展開に戸惑うまりに、柚木は、いまからまりには、姫君の身代わりとしての教育を受けてもらうと告げる