女神の悪戯ー18

「もう要件がないなら切りますよ?」


 これ以上由紀夫と話をしていたら、逢いたいと言いそうになると思った雪菜は、要件がもうないなら電話を切ると由紀夫に告げる。


「待って。切らないでくれ。本当の要件を言うよ…逢いたい…ほんの僅かな時間でもいい…雪菜に逢いたい」


 電話を切りそうな雪菜の勢いに、由紀夫は雪菜に電話を切らないで欲しいと頼むと、逢いたい…ほんの僅かな時間でもいいから雪菜に逢いたいと告げる。


「困らせ…ないで…私は…人妻なのよ…」


「わかっている…わかっていても…逢いたいんだ…雪菜に…」


 涙混じりに自分は人妻なのだからもう逢えないと言う雪菜に、由紀夫は雪菜が人妻なのはわかっているけれど、それでも雪菜に逢いたくてたまらないのだと告げる。その情熱に負けそうになりながらも、雪菜は必死にもう個人的に逢う事はできないと言い続ける。


「雪菜はもう逢いたくないの…?」


「個人的に逢うのはもう無理だと言っているんです」


 雪菜は逢いたくないのかという由紀夫の問いに、雪菜は逢いたいと言いそうになるのを堪えながら、個人的に逢うのはもう無理なのだと告げる。


「俺は…雪菜のためなら…全てを捨ててもいいと思っている…」


「…」

 
 自分のためなら全てを捨ててもいいという由紀夫の言葉を、雪菜は無言で聞いていた。


「雪菜が…今の幸せを守りたいのなら…このまま立ち去ってくれ…俺も雪菜の事は遠い思い出に戻すよ…」


「由紀夫さん?!どこにいるの?」


 自分のために全てを捨てきれないなら、このまま立ち去って欲しいという由紀夫の言葉に、由紀夫が近くに居る事を知った雪菜は、周辺を見渡す。


「ねぇ、どこにいるの?」


 周辺を見渡しても由紀夫の姿を見つけられない雪菜は、苛立つようにどこにいるのかと由紀夫に問いかける。


「もし…俺のために…全てを捨ててもいいと思うなら…ゆっくりと振り返ってくれ…」


「由紀夫さん…」


 もし、自分のために全てを捨ててもいいと思うならゆっくりと振り返って欲しいという由紀夫の言葉に、雪菜はしばらく考えた後、由紀夫の言う通りにゆっくりと後ろを振り返る。振り返ると、そこには、見渡しても見つけられなかった由紀夫が立っていた。


「雪菜…」


「由紀夫さん…由紀夫さん」


 声を聴きたくてたまらなかった、逢いたくてたまらなかった由紀夫の姿を見た雪菜は、持っていた携帯を放り出すと、由紀夫の胸の中に飛び込んでいく。