女神の悪戯ー17

 それから一か月後…由紀夫は佳奈美の通っている小学校の父兄参観日に参加する事になった。

佳奈美の通っている小学校。それは雪菜が勤めている小学校でもある。

まして、雪菜は佳奈美の担任。いやが応でも顔を合わせることになる。


「先生。さようなら」


 父兄参観日は無事終わり、雪菜は教師の顔で由紀夫に対応していた。しかし、心中は穏やかではなかった。

由紀夫が父兄参観日に参加してくるとは思わなかったからだ。

もし、由紀夫と視線が合ったりなんかしたら、教師の仮面が壊れてしまう。そう思いながら、雪菜は父兄参観日の参観授業を進めていた。


『どうして…来たの…?』


 由紀夫が父兄参観日に参加していた事で、雪菜の心は揺れ動いていた。二人きりになったりなんかしたら、言ってはならない事を言ってしまいそうになる。そんな衝動を抑えながら、雪菜は懇親会の席へと向かう。



 懇親会が終わり、帰宅の途に着いた雪菜の携帯が鳴る。まさかと思い発信先を見ると、やはり由紀夫だった。


「もしもし…」


「雪菜…もう久能先生って言わないといけないのかな…?」


「どちらでもいいです…要件は?」


 聴きたくてたまらなかった由紀夫の声に、雪菜は全身の血潮が沸き立つのを感じながらも、要件は何かと由紀夫に問いかける。


「要件がないなら切りますよ?」


「待って。切らないで」


 そっけない雪菜に、由紀夫は電話を切らないで欲しいと頼むと、佳奈美の様子から訊き始める。逢いたいと言いそうになるのを抑えながら、佳奈美の様子を雪菜から聞き出す。


「そういえば、あの後、大丈夫だった?」


 佳奈美の様子を一通り聞いた後、由紀夫は雪菜にあの一夜から帰った後、大丈夫だったかと問いかける。


「大丈夫でしたよ…主人の帰りには間に合いましたから…」


 由紀夫の問いかけに、雪菜は大丈夫だったと嘘をつく。本当はあれから昼夜関係なく求められている。だが、それを由紀夫に言ったら由紀夫を困らせる事になる。由紀夫を想うがゆえについた嘘だった。


「なら…いいのだけれど…無理矢理抱かれたなんて事になってないのか心配だったよ…」


 雪菜の嘘を嘘と思わずに、安堵したように由紀夫は、無理矢理夫婦生活を強いられたのではないかと心配していたと呟く。


「…夫婦なんですから…それなりの営みはあります…」


 由紀夫の嘘を見抜いたような言葉に、雪菜は驚きを隠せなかったが、冷静を装いながら夫婦なのだからそれなりに夫婦の営みはあると答える。