大奥恋絵巻ー20

「そうか…あの娘の許婚とは…そなたであったか…」


 敵意も感じる眼差しで見つめられた家治は、さらに憎悪を引き出すかのように、お妙の許婚とは蔵之介だったのかと笑いかける。


「あの娘はよい…身のこなしもよければ…鳴き声は特によい…」


 蔵之介の表情が憎悪に覆われるのを見越して、家治は、お妙の身のこなしはもちろんの事、自分に抱かれている時の鳴き声はたまらなくいいと笑いかける。


 その言葉に、蔵之介の目は見開き、いかに将軍であろうと自分の許婚を奪った男に掴みかかりたい衝動に襲われる。


 しかし、相手は時の将軍…逆らう事など許されない…屈辱にも近い言葉を投げ掛けられながら、蔵之介は拳をグッと握りしめて、家治の言葉に耐えるしかなかった。


「それでは…お妙様もお腹様になる日も近いという事ですね…」


「そこなのだ…わしの種を身籠って欲しいが…身籠ったら…いままでのように抱けぬ…痛し痒しだ…」


 屈辱に耐えるように、お妙が家治の種を宿す日も近いのだろうと呟いた蔵之介に、家治は、さらに憎悪を煽るように、種を宿しては欲しいが、種を宿したら、いままでのようにお妙を抱けなくなるから悩んでいるのだと笑う。


 この男はどこまで自分を屈辱の底に貶めれば気が済むのだろう…?許婚を奪われた事実だけでも屈辱的なのに、奪った事実をひけらかす家治の言葉に、蔵之介は自分がどうにかなりそうな感覚に陥る。


 実は、家治もまた、この蔵之介に嫉妬していた。


 お妙の身体は手に入っても、心はこの蔵之介にあるという事を誰よりも家治は感じていた。


 だからこそ、蔵之介に屈辱的な言葉を投げ掛けていないと、心がどうにかなりそうだった。


  屈辱に耐える蔵之介に、家治は最後の一押しとばかりに、今夜もお妙を所望すると告げる。