大奥恋絵巻ー10

「お妙…よくやってくれました…上さんの覚えめでたかったと聞いている…」


 昨夜の疲れがようやく取れたお妙を自分の前に召し出した瑤子は、お妙に昨夜の家治の様子は聞き及んでいる、よくやったと嬉しそうに声を掛ける。


「御台様…私…」


 家治に一晩中抱かれたという状況に、まだ戸惑うお妙は、瑤子に暇乞いをする。


「そなた…知らぬのか…?上さんのお手がついた者は…大奥を出られぬと…」


 暇乞いをしてきたお妙に、瑤子は、一度でも将軍に抱かれた者は、大奥を出られぬ事を知らなかったのかと声を掛ける。


「え…?そんな…」


 瑤子のその言葉に、お妙は、昨夜家治が言った許婚がいるなど自分にとっては意味をなさないという言葉の意味を知った。


 自分はもう蔵之介と夫婦になるどころか、蔵之介には二度と逢えない身になってしまった事を知る。


「そう…ガッカリするでない…上さんの寵愛を得ればよい…昨夜の様子からすると…それも夢ではない…」


 蔵之介との結婚ができないと知り、愕然とするお妙に、瑤子は、家治の寵愛を得ればいい、昨夜の家治の様子からしてそれも夢ではないと笑いかける。


「今宵も…所望されれば…間違いなしだ…」


「御台様…私は…」


 捕らぬ狸の皮算用よろしく、お妙が今夜も家治に所望されれば、お妙を薦めた自分の権勢も強くなると踏む瑤子に、お妙は、自分は蔵之介とささやかに暮らせればいいのだと呟く。


「もう…遅いのだ…あちらも…そなたに上さんのお手がついた以上は諦めると思う…」


 蔵之介とささやかに暮らさせて欲しいと呟くお妙に、瑤子はもうすでに事は進んでしまっていると答え、蔵之介の方もお妙に家治の手がついた以上は諦めるだろうと呟く。