大奥恋絵巻ー3

 運命は、お妙のささやかな幸せを打ち砕こうとしていた。


 大奥勤めにお妙が慣れ始めたある日、瑤子に呼ばれて瑤子の部屋に入ると、一人の聡明な武士が瑤子と共に座っていた。


 それが時の将軍だとわかったお妙は、深々と頭を下げる。


「上さん…この娘はお妙という娘で…行儀見習いを兼ねて…私の世話をしてもらっているの…」


「お妙というのか…中々可愛い娘だ…」


 お妙を見た将軍家治は、お妙に向かいニッコリと笑いかける。


 人を魅了する雰囲気に、お妙は惹き込まれたが、自分が将軍の歓心を得るはずがないと思っていた。


 しかし、次に家治が口にした言葉で、お妙は固まった。


「御台さん…この娘を…わしにくれないか…?」


 時の将軍がお妙を欲した…その言葉にその場にいた者が色めき立つ…


「いいですよ…上さんのお心のままに…」


「御台様…」


 お妙が欲しいという家治の言葉に、瑤子は家治の心のままにと答え、そのやり取りを聞いたお妙は、お美津が言っていた言葉が現実になっていくのを感じていた。


「あの…私…困ります…」


抗う術はないとわかっていながらも、お妙は、自分にはきちんとした許婚がいるから困ると瑤子に訴える。


「上さんのお言葉は絶対…それに…上さんからこの子が欲しいという言葉は誰も聞いたことがない…」


 お妙の訴えに、瑤子は、将軍の言葉は絶対であるという事と家治がいままで誰かを所望する言葉を聞いたことがないとお妙に笑いかける。