大奥恋絵巻ー2

 瑤子のそんな野望などに気付く間もないお妙は、この大奥で行儀見習いを終えた後に控える佐久間蔵之介との婚儀に胸を馳せていた。


「(この大奥での…行儀見習いを終えたら…蔵之介様と…)」


 佐久間蔵之介とはお妙が幼き頃から兄のように慕い続けた若き武士で、禄高はさほど高くはないが、忠義は厚く、誠実な青年だった。


「お妙…御台所様の覚えめでたかったけど…これなら…上様にも…」


「やめてください…私には…蔵之介様が…」


 瑤子の歓心を得たから、これなら時の将軍の歓心も得られるだろうと呟いてきたお美津に、お妙は、自分には蔵之介という許婚もいるし、将軍の目に留まるように人間ではないと答える。


「それは…わからないわ…ここは…上様のお気持ち次第の場所…上様が所望されれば…どんな女子でも従うのが…ここの掟だから…」


 自分が将軍に見初められるわけがないと呟くお妙に、お美津は、この大奥は、将軍に所望されれば、どんな女子でもそれに従い、床を共にしなければならない場所なのだと諭すように呟く。


「ここには…上様の寵愛を得て…お腹様になりたいと思っている女子がたくさんいるところでもあるのですよ…」


「わかっています…でも…私は…蔵之介様と…」


 お美津の諭しに、お妙は、大奥の道理は理解しているが、自分は蔵之介との婚儀の準備のために大奥勤めに上がったのだと呟く。


「気持ちはわかるけど…こればかりは…上様のお気持ち次第…」


お妙の呟きに、お美津は、蔵之介と無事婚儀を挙げたい気持ちはわかるけれど、将軍がお妙を所望したら、それに従うのが大奥の決まりなのだと諭し続ける。


「お美津様…その言い方では…まるで…私が…上様に…」


 お妙はお美津の言い方が時の将軍に召し出されるような言い方のように聞こえると呟く。