いつの将軍の時代か忘れたが…ここは…華の大奥…今日ここに行儀見習いを兼ねて大奥勤めに上がった娘がいる。
名はお妙…先に大奥に上がっていた遠縁のお美津を頼って行儀見習いを兼ねて、大奥勤めに上がったのだ。
大奥といえば、一人の将軍に三千人近い女子が仕える華やかだが、様々な欲望渦巻く地獄でもある。
「まずは…御台所様にご挨拶をするのよ…お妙…」
「はい…お美津様…」
大奥に上がって最初に御台所の鷹司瑤子に挨拶するようにとお美津から言われたお妙は、緊張の面持ちで、お美津に付き添われながら、瑤子のもとを訪れる。
「そなたが…新しい…私の世話をしてくれる者か…?」
御台所の瑤子はお妙にどこか値踏みしたような視線を投げ掛けながら、お妙ににこやかに笑いかける。
「妙にございます…」
お妙は、瑤子の値踏みしたような視線を感じながらも、自分より遥かに身分が上の瑤子に無礼があっていけないと思い、瑤子に深く頭を下げる。
「中々…器量のよさそうな娘だな…これなら…」
瑤子は何かを感じ取ったように呟くと、お妙に向かいにこやかに笑いかける。
瑤子は、お妙を見た瞬間、自分がこの大奥の実権を握れるかもしれないという野心が沸いてきたのだ。
いまのこの大奥の実権は、将軍の生母とその生母が推す側室たち特にお菊の方への寵愛は著しく、瑤子はお菊の方に対抗できる女子を探していたのだ。
自分は政略結婚の相手で将軍に愛されなくとも、自分に近い女子が時の将軍の寵愛を得れば、この大奥の実権を握れると考えたのだ。