「それを伝えるために…俺をここまで連れてきたのか?」
「そうだよ…みんなの前では言えないじゃない…あの人が社長の愛人だってことは…社内中が知ってることだもん…」
危険を知らせるためにここに連れてきたのかと訊ねたわたるに、ゆかりは、そうだと答えた後、かなみが社長の愛人だってことは、社員全員が知っている事で、その愛人とわたるが恋に落ちているなんて言えるわけないじゃないかと呟く。
「ありがとうな…でも…俺は…行くだろうな…あの人が…庭に花を咲かせてくれる限り…」
危険を知らせてくれたゆかりに、わたるは礼を言った後、やはり、かなみが庭先に花を飾ってくれる日が来る限り、自分はかなみの家へと通ってしまうのだろうなと呟く。
「いつ咲くかわからない花を待つの…?危険を冒してまで…?」
「そうだな…待つだろうな…危険も冒すだろうな…」
危険を冒してまでいつ咲くかわからない花を見に行くつもりなのかと問いかけるゆかりに、わたるは、そうだなと呟いた後、やはり危険だとわかっていても、いつ咲くかわからない花を見に行くだろうなと呟く。
「わたる…そんなにも…あの人の事が…好きなの…?」
「あぁ…そうだな…青山の言いたいことはわかるけど…俺は…あの人が庭に花を咲かせる日を待つしかできないんだ…」
危険を承知で逢いに行くほどにかなみが好きなのかと訊ねるゆかりに、わたるは、そうだなと呟いた後、ゆかりが言わんとしている事はわかるが、やはり、危険だとわかっていても、かなみが庭先に花を咲かせてくれるのを待つことしかできないと呟く。
「どうして…あの人なの…?あの人じゃなきゃどうしてもだめなの…?」
危険を承知しながらも、やはり、逢える時を待ってしまうというわたるに、ゆかりは、どうしてもかなみでないといけないのか、どうしてもいばらの道よりも険しく辛い恋を選ぶのかと問いかける。
「うん…俺は…あの人に誓ったんだ…どんな痛みにも苦しみにも耐えてみせるってな…」
ゆかりの問いかけに、わたるは、かなみにこの先どんな痛みや苦しみに遭っても耐えてみせると誓ったのだと呟く。
「すまない…色々心配掛けさせてしまって…でも…俺は…大丈夫だから…俺の心配するより…自分のこと考えろよ」
ゆかりの気持ちを知ってしまったけれど、それに応えられないすまなさを感じながら、わたるは、自分は大丈夫だから、ゆかりも自分の事を考えるようにと笑いかける。
「わたる…」
その言葉に、、わたるの心はすべてかなみに向けられていて、自分が入る余地がないことをゆかりは悟った。
もう、どんなに追いかけても、わたるの心は手に入らないと悟った。
「くれぐれも…気を付けるんだよ…?わたる」
わたるの心が手に入らないと悟ったゆかりは、危ない真似はしないようにと呟く。