禁区ー3

『この人は!』
 
 
 案内係に通された病院の診察室にも似た部屋の中にいた精神科医と思われる男性に一瞬にして心を奪われた。心を奪われたといっても、恋愛感情ではない。すべてを受け入れてくれそうな雰囲気に心を奪われたのだ。
 
 
『やっぱり言えなかった…』
 
 
 自分の持ち時間が終わり、部屋を出た晴美はため息をつく。
 
一通りの不定愁訴は言えたが、さすがにセックス依存症だとは言えなかった。すべてを受け入れてくれそうな雰囲気を持っている精神科医にでも、それは言えなかった。
 
さすがにセックスや自慰行為がやめられないとは言えなかった。
 
 
『やっぱり墓まで持っていこう…』
 
 
 女性のセックス依存症だなんて、すべてを受け入れてくれそうな雰囲気の精神科医にも言えない悩みに、晴美はやはり自分の胸の中にだけにしまっておくべき悩みなのかと思い始めていた。