酔芙蓉-2

それから…数日後…
 
「彩乃さん。ご指名です」
 
「はい。わかりました」
 
 黒服の声に、かなみは応えると、指名客がいるというテーブルに向かう。
 
「久しぶりだね。また来てしまったよ」
 
「ご指名ありがとうございます…西田…様…」
 
 指名客とは西田で、かなみは、西田に指名してくれた事のお礼のあいさつを返す。
 
「たった一回会っただけで名前を覚えるなんて…中々できない事だ…」
 
 西田は、かなみに、たった一度会っただけの客の顔と名前を覚えるなんて中々できない芸当だと声を掛ける。
 
「そんな事ありません…ホステスなら…誰しもできる事です…」
 
「いや…何回通っても…覚えてくれないホステスもいるぞ」
 
 ホステスなら一度で顔と名前を覚えて当然だと呟くかなみに、西田は、何回通っても顔と名前を覚えてくれないホステスもいるのだと笑う。
 
「彩乃…二度目でこんな事言うのもなんだが…店が終わったあと…わしに付き合ってはもらえないだろうか…?」
 
 西田は少し言いづらそうしながら、かなみに、店が終わったら自分に付き合ってほしいと切り出す。
 
「いいですよ…今日は…アフターの予定は入っていませんから…」
 
 アフターの誘いを切り出した西田に、かなみは、今日は他にアフターの約束は入っていないから付き合ってもいいと答える。
 
「ありがとう…彩乃…」
 
「いいえ…お客様のアフターの誘いに付き合うのも仕事のうちですから…」
 
 アフターの誘いを受けてくれてありがとうと呟く西田に、かなみは、お客のアフターの誘いを受けるのもホステスの仕事のうちだと笑いかける。
 
 それから…店が終わり、西田とかなみは、遅くまでやっているバーへと繰り出した。
 
「彩乃は…君は…一体…いくつなんだい…?」
 
 アルコールの酔いが程よく回ってきた西田は、かなみに、年齢を訊ねる。
 
「女に年齢なんて…訊かないでください…」
 
 西田に年齢を訊かれたかなみは、年齢を言えるほどの年齢ではないから訊かないで欲しいと呟く。
 
「気に障ったなら…謝る…ただ…年齢を感じさせないところが気になってな…」
 
 年齢は訊かないで欲しいと呟いたかなみに、西田は、気に障ったら謝るが、年齢を感じさせない雰囲気が気になったのだと呟く。
 
 西田とかなみの距離は一段と近付き、二人はバーの雰囲気に飲まれるようにカクテルを飲み続ける。