雪月花-14

「旦那…様…やめて…ください…」
 
「いいじゃないか…見せつけてやろうじゃないか…この男に…」
 
 か細い声でやめて欲しいと呟くかなみに、西田は、わたるに自分たちの関係を見せつけてやろうと呟くと、わたるに見せつけるように、かなみの身体に唇を這わせ続ける。
 
 そこに広がる目を覆いたくなるような光景に、わたるは、目を塞ぎ、耳を塞ぎ、逃げ出したい衝動に襲われる。しかし、足が動かない。その光景から目が離せなかった。
 
「かなみさん…大丈夫です…僕は…前に…言ったじゃないですか…あなたのためなら…どんな痛みにも…苦しみにも…耐えてみせるって…」
 
 目に苦痛の涙を浮かべるかなみに、わたるは、自分なら大丈夫、前にも言った通り、どんな痛みにも苦しみにも耐えてみせると呟く。
 
 目を逸らしてはいけない…耳を塞いではいけない…自分は…かなみのためなら…地獄の業火に焼かれても構わないと…誓ったのだから…
 
「かなみさん…僕を見てください…あなたの全てを…僕は受け入れます…」
 
 苦痛の涙を浮かべ、わたるから視線を逸らし続けるかなみに、わたるは、自分をちゃんと見てくれと呟いた後、自分はかなみの全てを受け入れると呟く。
 
「わたるさん…」
 
 下半身で西田を受け入れながら、かなみは、わたるの声のする方に視線を合わせる。そこには、目の前に広がる現実を必死に受け入れるわたるがいた。
 
「なぜ、逃げ出さない?」
 
「逃げません。僕は…この人を…かなみさんを…愛していますから…」
 
 普通の人間なら逃げ出しているはずの現実に、なぜ逃げ出さないかと訊ねる西田に、わたるは、逃げないと言い切った後、自分はかなみを愛しているから、どんな現実も受け入れるのだと呟く。
 
「わたるさん…」
 
「かなみさん…愛してます…世界中の誰よりも…あなたを…」
 
 目の前に広がる試練と呼ぶには酷い地獄に、わたるは、かなみを見つめながら、かなみに、世界中の誰よりもかなみを愛していると呟く。
 
「黙れ、クビになりたいのか?」
 
「クビにしたければしてください…僕は…全てを失っても…かなみさんを…愛さずにはいられません…」
 
 クビになりたいのかという西田の言葉に、わたるは、クビにしたければしてもいいと言い切った後、全てを失っても、かなみを愛さずにはいられないと呟く。
 
「社長…僕は…あなたが抱いた後のかなみさんを何度も抱きました…だから…これくらい平気なんです…」
 
 かなみを抱き続ける西田に、わたるは、自分は西田に抱かれた後のかなみを抱いてきたから、こんな光景を見ても平気なのだと呟く。