雪月花ー13

罠は…思わぬところに仕掛けてある…罠は罠とはわからない形で仕掛けてある…
 
「(あっ…すみれだ…)」
 
 西田との鉢合わせを免れてから数日後…わたるは、いつものように、かなみの家の庭先に花が咲いていないか確かめにきていた。そして、この日、庭先にすみれを見つけた。花が置いてあるという事は、逢えるという事、わたるは、胸を躍らせながら、かなみの家の玄関を開ける。
 
「(あれ…?かなみ…さん…?いないのかな…?)」
 
 玄関を開けても、かなみが出てくる気配がないことを不審に思いながら、家の中へと進んでいく。そこに、試練と呼ぶには酷い地獄が待っていると気付くことなく。
 
「かなみ…さん…いないのですか…?」
 
 家の中を進みながら、わたるは、かなみの姿を探す。その時、奥の方から物音がした。わたるは物音がした方へと足を進める。そこに待ち受ける試練と呼ぶには酷い地獄が待ち受けていると知らずに。
 
 物音がする方に近付くにつれ、違和感を感じたわたるは、西田が来ているのかという考えが過る。もしかして、自分とかなみの関係に気付いた西田が、かなみに何かしているのではないかという考えが過る。引き返すかと一瞬思ったが、自分の考えすぎかもしれないと思い、物音がした奥の方へと足を進める。
 
「かなみ…さん…」
 
 奥の部屋を開けた瞬間、わたるは、自分の目を疑った。いや、疑いたかった。そこには、かなみと西田がいたからだ。
 
「やはり、君か。皆川わたるくん」
 
「社長…」
 
 そこで何が行われていたかは一目瞭然の部屋で、声を掛けてきた西田に、わたるは、何も言えずその場に立ち尽くす。ついにかなみとの秘密の関係が露呈してしまった瞬間だった。
 
「おかしいと思っていたのだよ…かなみと会わせてからの君のデザインはガラリと変わった…まるでかなみに恋をしたかのように…まさか…本当に恋をしていたとはな…」
 
 その場に立ち尽くすわたるに、西田は、かなみを会社に連れて行ってからのわたるのデザインがガラリと変わっていったから、おかしいと思っていたと呟く。
 
「だが、もう、かなみを想う事はできないだろう。私とかなみの関係を知って」
 
 その場に立ち尽くし続けるわたるに、西田は、自分とかなみの関係を知ってしまったからには、もうかなみを想う事はできないだろうと笑いかける。その笑いは、わたるを蔑んでいるようにも思える笑いだった。
 
「そこで見ているがいい。私とかなみの関係を」
 
 これは悪い夢だと思いたいという表情を浮かべるわたるに、西田は、かなみを抱き寄せると、わたるに見せつけるように、かなみの身体に唇を這わせ始める。
 
 静かでいて張りつめた空間に、か細い声で拒絶の声を上げるかなみに声が響き渡る。