下弦の月ー8

「映画は…満足していただけましたか…?」


 映画館を出て、駐車場に向かいながら、ひろきは、れいかに、映画には満足してもらえたかと問いかける。


「それどころじゃ…ありませんでしたわ…」


 ひろきの映画は満足してもらえたかという問いに、れいかは、ひろきに悪戯されたからそれどころではなかったと答える。


「僕の悪戯?あれが?」


「そうです…あんなところで…あんな事するなんて…」


 自分がした事のどこが悪戯だったのだととぼけるひろきに、れいかは、映画館の中という場所で、あんな事するなんてひどいと抗議する。


「あんな事って…?」


「それは…」


 あんな事とはどういう事なのかと首をかしげるひろきに、れいかは、その先を言えずに口ごもる。


 太腿を撫でられただけで身体が熱くなったとか、キスをされただけで蕩けそうになったとか言えるわけがないと思ったからだ。


「あれくらい…あんな映画には付き物です…気付かなかったのですか…?僕たち以外にもそういう事をしているカップルがいた事を…」


 映画館で自分からされた行為に頬を赤く染めるれいかに、ひろきは、あれくらいの事は、ああいった映画には付き物で、自分たち以外にもそういう事をしていたカップルがいた事に気付かなかったのかと笑いかける。


「だから…それどころではなかったと…」


 ひろきの言葉に、れいかは、ひろきにされた行為に気を取られてそれどころではなかったと言っているじゃないかと呟く。