平安恋奇譚ー16

 一方…蒼の執務室…


「蒼様…」


 ぼんやりとしている蒼に、青葉が声を掛ける。


「何だ?」


「書類が違いますよ…」


 声を掛けられ、我に返った蒼は、青葉に、何だと訊ね、青葉は、書類が違うと声を掛ける。


「今日は…どうも…気分が乗らない…」


 書類を間違えた事を隠すように、蒼は、今日は気分が乗らないと呟き、執務室を出ていく。


「まりはどこだ?」


「いまのうちに湯を使うと…」


 部屋にまりがいない事を不審がった蒼は、まりはどこにいると小梅に問いかけ、その問いかけに、小梅は、まりなら湯を使いに行っていると答える。


「この屋敷って…何でもあるんだ…」


 泥だらけになる事は厭わないが、下半身のベトベト感には慣れないまりは、小梅に無理を言って湯を使わせてもらった。


「執務を抜け出してくるなんてないわよね…」


 湯で身体や髪を洗いながら、まりは、蒼が執務を抜け出して自分を探しに来るなんてないはずだと思っていた。


「まり」


「きゃっ」


 来ないと思っていた蒼の声と開いた湯殿の扉に、まりが驚いていると、蒼が湯殿の中へと入って来た。