夜明けが近い…意識があるのか、ないのか、わからないような瞳でシーツの波を眺める凛子を見ながら、アスランは、満足げとはいえない表情を浮かべていた。
サルタンの自分に求められれば、みな身体を許すと思っていた。
女性に拒否された事がなかったアスランは、凛子が最後まで自分を受け入れてくれなかったことに苛立ってしまった。
苛立ちのあまり、自分が思っていた以上の事を凛子にしてしまった。
ただ肌色や毛色が珍しかっただけだと思っていたけれど、初めて凛子を見た時、いままでとは違う何かを感じ取っていたのではなかったのかという思いが、アスランの中に駆け巡る。
「リンコ…」
アスランは、まだ虚ろな瞳でシーツの波を眺める凛子に呼びかける。
一瞬、凛子が身じろいだ気がしたが、気のせいだろうと、アスランか嘆息する。
ハレムの女たちはみな自分の端整な顔立ちを褒め、自分の愛撫に悦びの声を上げる。
それが当たり前だとアスランは思っていた。
凛子のように婚約者がいるからと自分を拒否する女性は初めてだった。
嫉妬みたいなものもあったのかもしれないとアスランは考えていた。
こんなに貞淑な凛子に想いを向けられるその婚約者に嫉妬していたのかもしれないと。
「リンコ…私は…そなたに…恋をしたのかもしれない…」
身じろぎ一つしない凛子の髪を撫でながら、アスランは、自分の中で目覚め始めた感情を凛子に告げる。
その声は、凛子に届くはずもなく、アスランは赤黒くなった凛子の両手首を撫でながら、いまさらながらに自分のしてしまった行為を後悔する。
アスランは、朝が来ても、凛子のもとから離れず、凛子を見つめながらその日を過ごした。