夜が明け、あやかは、仕事を休めばいいのにという紫苑に、自分は気楽に休めないのだと言い残し、会社に出社する。
昨夜、パーティー用のドレスで紫苑と夜を過ごしてしまったから、紫苑が用意した着替えに着替えるのに時間がかかってしまって、会社には遅刻した。
上司から小言をもらったが、紫苑が手を回してくれたのか小言の最中で態度が一変して。お咎めなしなった。
「(できるなら…もっと…紫苑さんと…いたかったけど…私は…しがないOLなのだから…魔法は消えてなくなるのよ…)」
一夜だけでもお姫様気分が味わえただけでも、紫苑には感謝しなければいけないと思いながら、あやかは、日常の業務をこなす。
「白岡君…ちょっと…」
「はい…なんでしょうか…?」
いきなり直属の上司に呼ばれたあやかは、何事かと思いながら上司のもとに行く。
「今すぐ社長室に行ってくれ」
「わかりました」
いきなり社長室に行けと言われたあやかは、なぜ自分が社長に呼ばれたのかわからないままに社長室へと向かう。
「失礼します」
社長室のドアをノックして社長室に入ると、そこには、応接用の長椅子に座る紫苑がいた。
「白岡君。いきなりだが、退職届を出したまえ。そして、こちらに居られる御影様の秘書として働き給え」
「えっ?あの、私、」
社長に呼ばれたかと思ったら、いきなり退職届を書いて、紫苑の秘書として働けと言われたあやかは、パニックに陥る。
「悪い話ではないはずだ。君は秘書の資格も持っているしな」
「社長…」
「私としましては今すぐと言いたいところですが、彼女の仕事の引継ぎなどあるでしょうし、そちらの体面を考えて来月からという事で…」
「というわけで…有給を消化してもらって、残りは病欠で片付けるから、今日はもう帰っていいですよ」
紫苑がここまで手を回すと思っていなかったあやかは、ニコニコと笑う紫苑を少しにらみつけ、外で待ってると耳打ちし、帰っていった紫苑を見送った後、自分の持ち場に戻り、残務整理をした後、大学卒業後から働いてきた職場に別れを告げる。
紫苑はなぜここまでするのだろう…?自分のどこが気にったのだろう…?
わからない…わからないが…間違いなく…今日…自分は職場を追われた…
ヘッドハンティングといえば、聞こえはいいが、紫苑の気まぐれ次第では…自分は無職だ…
そう思いながら、あやかは、紫苑の待っているリムジンへと向かう。