家治とお妙の想いが通じ合ったその頃、大奥ではまだ熾烈な権勢争いが繰り広げられていた。
「お菊…お妙は必ず上様のお子を身籠る…」
「わかりませんわ…寝所を遠ざけられるのが先かもしれませんよ…」
言い争ってはいるが、話題は権勢をどちらが我が物にするかではなく、お妙が家治の子を身籠るか身籠らないかである。
ここまで家治の寵愛を受けているお妙を見過ごせなくなったお菊と一度は切り捨てようとしたが、家治のお妙への寵愛ぶりを見て、切り捨てられなくなった瑤子が、お妙の懐妊はいつの事かと言い争っているのだ。
お妙は決めていた…もし…家治の子を身籠っても…瑤子につくつもりも…お菊に対抗するつもりもないという事を…
ただ静かに…心から愛する人の子供を身籠る喜びに浸りたいと…
子供を何が何でも世継ぎにしたいなどとは思っていない…だから…静かに親子ともに過ごせたらそれでいいと思っていた。
その吉報は、間もなくして訪れた…しかし、お妙は、家治以外の人間には、その事実を伏せた。
知られれば権勢争いに引き出される…お妙は…いつまで隠しきれるかわからないけれど、せっかく身籠った家治の子が、権勢争いに使われて、心穏やかに過ごせなくなることを恐れたのだ。
「お妙…本当に大丈夫か…?」
身籠っている事を隠しての寝所の相手だから、家治は、身体に負担がかからないかと不安げにするが、お妙は至って冷静に寝所の相手を務める。
お腹が目立てば隠しきれないが、それまででも隠し通したいとお妙は思っていた。
お妙が隠し続けて半年後…お妙は凛々しくもあり可愛い男子を産んだ…周りは隠し通された事に驚いた…その後…その男子はやがて成長し、家治の優れた後継者になった。