「お前たち…何も言わなくてもいいのか…?」
ただ見つめ合っただけで全てを悟るお妙と蔵之介に、家治は、どこか嫉妬をめいたものを感じながら、お妙と蔵之介に声を掛ける。
「佐久間様…私は…上様と大事な話があります…」
「わかりました…私はこれにて失礼させていただきます…」
家治に大事な話があると呟いたお妙に、蔵之介は、自分はこれで下がらせてもらいますと答え、その場から去っていった。
「かつて…愛し合った者同士にしては…あっさりしてるな…」
「愛し合っていたわけではありません…」
結婚を約束し合った割には別れがあっさりしているなと呟いた家治に、お妙は、結婚の約束はしていたけれど、愛し合っていたわけではないのだと答える。
「上様…何を画策したのか…存じ上げませんが…こんな事無意味です…」
「無意味とは何だ…?無意味とは…」
家治が何を画策して自分を城の庭に連れ出したか知らないが、無意味だと呟くお妙に、家治は何が無意味だというのだと訊ねる。
「あの方は…一瞬にして悟られたのです…私の心がどこにあるか…」
家治の問いに、お妙は、蔵之介は一瞬で自分の心がどこにあるのかを悟ったのだと呟く。
「そなたの心は…どこにあるのだ…?あの者ではないとしたら…」
お妙の呟きに、家治は、お妙の心が蔵之介にないのなら、一体どこにあるというのだと問いかける。
「それは…上様が一番ご存知の方です…」
家治の問いに、お妙は、自分の心を奪った人間は、家治が一番知っている人間だと答える。
そう答えた後に、お妙は家治の手を握り、家治に笑いかける。