数日後…この日、わたるは、どうしても顔を出しておかなければならない飲み会の場にいた。
もしかしたら、今日、かなみが逢ってくれるのではないかと思うと、飲み会どころではないのだが、この飲み会の主役はわたると言っても過言ではない飲み会だった。
「わたる。ちょっとペース速くない?」
酒を浴びるように飲むわたるに、ゆかりが心配そうに声を掛ける。
わたるが酒を浴びるように飲みだした理由…それは、とある男性社員が口走ったかなみの話題。
綺麗だったくらいだったら許せるのだが、ああいう女性と仲良くなりたいものだという酒の席でも許されない下品なものだった。
わたるはその男性社員に掴みかかりたい衝動に襲われたが、かなみと自分の関係が露呈するのでは思い、こうして酒を浴びるように飲んでいるのだった。
「わたる。大丈夫?」
完全に泥酔してしまって、足元もおぼつかないわたるに、ゆかりが声を掛ける。泥酔状態では一人で帰れないだろうという事で、ゆかりが送っていくことになった。
「わたる。しっかりして。もう、あの人の悪口言われたからって…」
完全に泥酔して、我を忘れているわたるを抱えながら、ゆかりは、かなみの悪口を言われたくらいで我を忘れるほど酒を飲むなんてと思っていた。
やがて、わたるの部屋に着き、ゆかりは、わたるをベッドに横たわらせる。その時、わたるがかなみの名を呼んだ。
「そんなにも…あの人が…好きなの…?わたる…」
かなみの名を呼び続けるわたるを見ながら、ゆかりは、どうしても、かなみでないとだめなのかとわたるに問いかける。
わたるの心がかなみに全て向けられているとわかっているが、ゆかりは、もし、何かの拍子に自分に気持ちを向けてくれるのではないかという想いが過る。かなみの代わりでもいいという思いが過る。
「わたる…さん…」
ゆかりは、前に見た、わたるとかなみのやり取りの中で、かなみがわたるをそう呼んでいた事を思い出し、そっとわたるに呼びかけてみた。
その時、わたるがゆかりを抱き締めてきた。かなみさんと呼びながら、ゆかりに口付け、ゆかりの身体に唇を這わせていく。
それからは、石が転がるように、行為が進んでいく。わたるに抱かれながら、ゆかりは、いつもかなみはこんな風に、わたるに抱かれているのだろうかと思っていた。
「わたる…あっ…んっ…わた…る…あぁっ…」
これは、わたるがかなみと自分を間違えて起きている過ち…わかっていても…これでわたるが、自分に向いてくれることが起きるのではないという期待が沸いてくる。
ありえないことだけれど、もしかしたらを期待してしまう。
「(わたる…いまだけでいいから…わたるの恋人になった気分にさせて…)」
眠るわたるを見ながら、ゆかりは、朝になれば消える夢とわかりながらも、いまだけでいいからわたるの恋人になった気分に浸らせて欲しいと心の中で呟く。