季節は秋…かなみの家の裏手から金木犀の香りが漂う季節となった…
「(本当に…大丈夫かな…?)」
しかし、金木犀が咲いたらいつでも逢えるとかなみは言っていた。なぜだろう…?
「金木犀の香りが嫌いなのです…あの人は…」
「僕は…好きです…かなみさんが…用意する花は全部好きです…」
西田が金木犀の香りを嫌って寄り付かないと知ったわたるは、かなみに、自分はかなみの用意する花はみんな好きだと呟く。
「花には見えない花もあるから…気を付けてくださいね…?」
「はい…」
金木犀の香りが漂う間だけの頻度が増す逢瀬…普通に話して…キスして…それから…想いを語らって…秋の夜長を過ごす…。
季節は巡って…冬…街はクリスマス一色…
「(これは…花かな…?)」
かなみの家の庭先に置かれた花なのかただの葉っぱなのかわからない植物に、わたるは家の中に入っていいのか悪いのか迷っていた。
「わたる。何してるの?」
「お前こそ、何してるんだよ。今日はクリスマスイブだぞ」
花か葉っぱかわからない植物にわたるが悩んでいたら、ゆかりに声を掛けられ、驚いたわたるは、クリスマスイブにこんなところで何をしているのか問いかける。
「クリスマスイブだから見に来たんじゃない…わたるがイブをどう過ごすか…」
「ほっといてくれ」
クリスマスイブに一人だったらかわいそうだと思って見に来たと呟くゆかりに、わたるは余計なお世話だと答える。
「でも…その心配はなくなったね…わたる」
「どこが?」
「わかんないの?庭先に葉牡丹置いてあるじゃない」
クリスマスイブを一人で過ごす必要はなくなったねと声を掛けてきたゆかりに、どこが心配なしなのかと訊ねたわたるに、ゆかりは庭先にちゃんと葉牡丹と言うれっきとした花が置いてあるじゃないかと声を掛ける。
「花…なのか…?これ…」
どう見てもただの葉っぱにしか見えない代物に、わたるは困惑する。もし、本当に花ならば、今夜はかなみと過ごせることになるという事…わたるは、思い切って呼び鈴を鳴らす。