熱く乱れた後にやってきた沈黙の時間。
かなみは乱れた髪を直し、わたるは天を仰ぐ。
夕闇から宵闇に包まれた絹の海の中で、わたるとかなみは禁じられた想いと重なり合った時を思い返す。
「あの…かなみ…さん…」
「はい…」
宵闇に包まれた天井を仰ぎながら、かなみに声を掛けたわたるに、かなみは結いかけた髪から手を離し、わたるの声に応える。
「すみません…困らせてしまって…」
まだその余韻を残したような声で自分の声に応えたかなみに、わたるは自分の想いのせいでかなみを困らせてしまったのではないかと呟く。
「謝らないでください…何も困らせてなんかいませんから…」
わたるの謝罪の言葉に、かなみは謝らないで欲しいと呟いた後、続けて何も困らせてなどいないと呟く。
わたるの切実な想いに応えたのは、紛れもなくかなみの意志…禁じられた恋と自覚しながらも、わたるの腕の抱かれたのは紛れもなく自分の意志であることをかなみは自覚していた。
「でも…これだけは…知っておいてください…ひと時の気まぐれで…あなたを好きになったわけではない事を…」
「わかっています…私も…ひと時の気まぐれで…あなたを受け入れたわけでは…ありませんから…」
ひと時の気まぐれでかなみに恋をしたわけではないと呟いたわたるに、かなみは自分もひと時の気まぐれでわたるを受け入れたわけではないと呟く。
「でも…今日は…これで…お帰りください…宵闇が深くならないうちに…」
これ以上、わたるがそばにいれば、許されざる恋であることを益々自覚してしまうと思ったかなみは、わたるに宵闇が深くならないうちに帰って欲しいと呟く。
「わかりました…今日は帰ります…あの…また…ここを…訪ねても…いいですか…?」
かなみの呟きに、わたるはわかったと呟くと、続けてまたこの家を訪ねても構わないかと問いかける。
わたるもまた、自分の想いが許されざる想いである事を自覚していた。そして、許されざる恋へと変貌した事も。
「来てもいい時は…私から…連絡差し上げます…」
わたるの問いかけに、かなみは来てもいいが、来てもいい時は自分から連絡すると答える。
自分のさる人にわたるを気付かせてはならない…そして…わたるへの自分の想いを隠さなければならない。
「じゃあ…連絡待ってます…」
訪ねてもいい時は連絡するというかなみに、わたるは連絡を待っていると呟き、一面に広がる絹の海の中から、自分の服を拾い上げると、かなみの家から帰って行った。