女神の悪戯ー11

『雪菜…』
 
 雪菜から出張で遠方に居るから逢えないという内容のメールを受け取った由紀夫は、逢えない分だけ募る想いと闘っていた。もし、逢えたなら、この腕にかき抱いて、あの時と同じ声を聴きたいと思っていた。でも、それが叶わない。メール文の向こうにある由紀夫に逢いたいのだが、夫をこれ以上欺けないという雪菜の本心も感じ取ったからこそ、由紀夫は苦しいのだ。
 
『雪菜…なぜ…他の人の妻になった…』
 
 逢いたいけれど逢えないという雪菜の本心に、由紀夫はなぜ雪菜が人妻となってから再会させた運命の女神を恨みたくなった。なったが、恨んでも仕方がないと思い、声だけでも聴きたいと雪菜の携帯を鳴らす。だが、雪菜からの応答はなく、由紀夫は落胆するしかなかった。逢う事も声を聴く事もできない事に、由紀夫の胸には益々逢いたいという想いだけが募っていく。
それからまた三週間後…逢いたい想いが止められない由紀夫は、これが最後だ、最後だと思いながら、毎日のように雪菜に逢いたいというメールを送り続けていた。取りようによればストーカーだが、逢いたい想いが止められない由紀夫は、雪菜が逢ってくれるのを期待しながらメールの送信ボタンを押す。それから三十分程して、由紀夫の携帯の着信音が鳴る。仕事の電話だと思い、番号も確かめずに電話に出ると、電話の向こうから聞こえてきたのは、逢いたくてたまらなかった雪菜の声だった。
 
「雪菜…なの…か…?」
 
 由紀夫が聴きたくてたまらなかった雪菜の声に、由紀夫はようやく雪菜の声が聴けた喜びに打ち震えながら、雪菜が電話を切りはしないかとドキドキしていた。その時、雪菜から切り出された言葉に、由紀夫は全身の血潮が沸き立つのを感じずにはいられなかった。
 
今夜、夫が出張で家に居ないと…。
 
 初めて結ばれたホテルのロビーで待ち合わせ、逸る気持ちを抑えながら、無言で部屋へと向かった由紀夫と雪菜は、部屋のドアを閉めた瞬間、もう待ちきれないとばかりに熱い抱擁を交わすと、熱い口付けを交わす。逢いたいけれど逢えないというジレンマを取り払うように、舌と唾液が混じり合うような熱い口付けを交わしあい続ける。
 
「逢いたかった…君は…電話にも出てくれなければ…メールも返してくれなかったから…逢いたさが募るばかりだったよ…」
 
「ごめんなさい…色々と忙しくて…」
 
 唇を離し、逢いたくてたまらなかったと呟く由紀夫に、雪菜は色々と忙しくて中々電話やメールに対応できなかった事を詫びる。その忙しいには仕事だけではなく、夫への背徳感がある事を由紀夫は感じ取っていた。声を聴けるだけでも十分だったはずなのに、雪菜に逢えた今、由紀夫は雪菜をこの腕に抱きたい気持ちでいっぱいだった。