月光花ー20

「他人の家の前で痴話げんかはやめてください」
 
「かなみさん…」
 
 わたるがゆかりに詰め寄っていると、かなみが家から出てきて、痴話げんかはやめろと告げ、かなみを見たわたるは、ただその場に立ち尽くす。
 
「皆川さん…もう…ここにはおいでにならないでください…」
 
「かなみさん…」
 
 その場に立ち尽くすわたるに、かなみはもうこの家には来ないで欲しいと告げ、わたるは、嘘だと言ってほしいとばかりにかなみを見つめる。
 
「ご存知のように、私はあなた方が勤める会社の社長の愛人です。皆川さんとは遊びです」
 
「かなみさん…嘘だと言ってください。かなみさん」
 
 自分はわたるたちの勤める会社の社長の愛人なのだ、だから、わたるとは遊びだったのだとわたるに告げるかなみに、わたるは嘘だと言ってくれと詰め寄る。
 
「嘘ではありません…私が一番愛しているのは…西田です…」
 
「かなみさん…」
 
 わたるとは遊びだったのだ、嘘ではない、自分が愛しているのは社長の西田なのだとわたるに告げ、早くここから立ち去るよう告げるかなみを、わたるはどうして嘘をつくのだと言いたげにみる。
 
「行こう。わたる」
 
 ゆかりは、わたるの手を引くと、かなみの家から立ち去ろうとする。しかし、その手をわたるは振り払う。
 
「かなみさん…確かに…僕は…この青山と…間違いを起こしました…でも…僕は…かなみさん以外に誰も好きになってません…」
 
 かなみに許しを乞うように、わたるは、確かにゆかりと一夜の過ちを犯したのは事実だけれど、自分はかなみ以外の人間に心を動かされてなどいないと告げる。
 
「そんな事…私に言って…どうするのですか…自分を弄んだ相手に…」
 
「かなみさん…僕が…あなたの嘘を見抜けないとでも思っているのですか…?」
 
わたるの告白に、わたるを弄んだ自分に言っても仕方ないだろうと呟くかなみに、わたるは、自分がかなみの嘘を見抜けないはずがないだろうと問いかける。
 
「早くお帰りください。ここにいられると迷惑なんです」
 
「かなみさん」
 
「お帰りください」
 
 ここにいられると迷惑だから帰ってくれと告げるかなみに、わたるは食い下がるようにかなみの肩を揺すり、肩を揺すられたかなみは、強い口調で帰ってくれと告げる。
 
「わかりました…今日は帰ります…でも、ここには何度でも来ます」
 
 いま、かなみに何を言ってもだめだと思ったわたるは、今日は、帰るけれど、かなみの家には何度でも来ると告げ、帰って行った。