十六夜の恋その一

出会って一秒で落ちる恋などないと、思っていたけれど、落ちてしまった。



青山ゆかりは思った。



日本人離れした背丈と目鼻立ちをした青年に、かなみはひと目で恋に落ちた。



長年片思いしていた男性にも面影も似ていたのか、ゆかりは、その男性に目を奪われていた。



もう恋はできない…ゆかりは、片思いしていた男性に失恋した時思っていた。



思っていたけれど、なぜかその男性に似た面影をした男性に惹かれ始めていた。



十六夜の月に照らされたその男性に惹かれ始めたゆかりは、かつて思いを滾らせた異性の事など、遠い過去のように思えた。


「(わたるに似てるようで…似てない人…)」


かつて、思いを滾らせた皆川わたるを思い出しながら、ゆかりは、月明かりの向こうに佇む男性に引き寄せられるように、男性のもとへと歩み出す。


「月…お好きですか…?」

ゆかりに気付いた男性は、ゆかりに月は好きかと訊ねてきた。

「いいえ…月明かりで失恋した事があるので…」

男性からの問いに、ゆかりは、かつて月明かりの下で失恋したので、月明かりによい思い出はないと答える。

その時、ゆかりの脳裏に月明かりの下で抱き合い続ける皆川わたると綾瀬かなみの姿が過る。


「僕の名前は…立花司…あなたは…?」

「ゆかりです…青山ゆかりと申します…」

立花司と名乗る男性に、名前を訊かれたゆかりは、立花司の優しげな声に導かれるかのように、自分の名前を答える。


十六夜の月がもたらした出会いに、立花司と青山ゆかりは、いままでとは違う何かを感じていた。