砂漠の薔薇ー1

 時は明治…華族の伯爵令嬢の凛子は、父の伊集院伯爵に付き添い、欧州へと向かう船に乗っていた。


外交官の父の手助けをするためであるが、凛子は、初めての外国に胸を馳せていた。


病身の母に代わり、父を助けるために、語学の勉強もしたし、礼儀作法も学んだ。


「凛子…明後日には…任地に着く…」


「はい…お父様…」


 明後日には任地である欧州に到着すると声を掛けてきた伊集院伯爵に、凛子は、笑顔で頷く。


「しかし…この海域は…海賊がよく出没すると聞いている…無事通れればよいが…」


 伊集院伯爵は、欧州に向かう途中の海域に、海賊が出没すると聞いていたので、海賊の遭遇することなく無事通れるか心配していた。


「海賊って…殺されてしまいますの…?」


「いやっ…殺しはしないが…多額の身代金を要求するらしい…」


 海賊に遭遇したら命を奪われるのかと危惧する凛子に、伊集院伯爵は、命を奪われることはないが、多額の身代金を要求されるらしいと答える。


「身代金を払えない場合は…どうなりますの…?」


「奴隷市場に売られるとか聞いたことがある…」


 身代金を払えない場合はどうなるかと訊いてきた凛子に、伊集院伯爵は、そうなった場合は奴隷市場に売られるらしいと聞いたことがあると答える。


「怖いですわ…無事辿り着きたいですわ…」


 この海域を荒らし回っている海賊の話を聞いた凛子は、なんとか無事海賊が出没する海域を抜け、父の任地に辿り着きたいと考えていた。


 向こうで待っている婚約者の九条弘樹との生活に胸を馳せながら、凛子は、欧州行の船の上で無事弘樹に会える事を祈っていた。