「彼女と何の話をしていたのだね?かなみ?」
「着物と日舞の話を…」
ゆかりが帰った後、西田にゆかりと何を話していたのかと訊かれたかなみは、着物と日舞の話をしていたのだと答える。
「本当は、彼女ではないのじゃないか?話をしていたのは」
「どうしてですか…?」
本当はゆかりではなく、別の人間と話をしていたのではないかと西田に問いかけられたかなみは、どうしてそう思うのかと問い返す。
「皆まで言わせたいのか?かなみ?」
「おっしゃっている…意味が解りません…」
自分に全部言わせたいのかと問いかける西田に、かなみは、言っている意味が解らないと首をかしげる。
「彼女が叫んでいたな?わたる逃げてと」
「旦那…様…?」
ゆかりの叫び声を聞いていたという西田に、かなみは、あの声を聴かれていたことを知り、全身の血がひいていくのがわかった。
「かなみ。まさか、わたるとは、わが社の和装デザインを手掛けている、皆川わたるか?」
「違います。何かの聞き間違えです」
西田にゆかりが叫んでいたわたるとは、自分の会社の和装デザインを手掛けているわたるかと訊かれたかなみは、大きく首を振り、叫ぶように何かの聞き間違いだと答える。
「私は…皆川さんとは…三度しか会っていません…初めは…茶会で会って…着物を見せて欲しいと頼まれた時と…会社に連れて行って頂いた時の…三度だけです…」
西田にわたると逢っていたのではないかと訊かれたかなみは、わたるとは、茶会で会った時と着物を見せて欲しいと頼まれた時と西田に会社に連れて行ってもらった時の三度しか会っていないと呟く。
「まぁ、いい。かなみ。くれぐれも忘れるな。自分の立場というものを」
「わかっています…私が…旦那様の…籠の鳥だって…事は…」
くれぐれも自分の立場を忘れるなと声を掛けてきた西田に、かなみは、わかっていると静かに呟いた後、自分が西田の籠の鳥だという事は十分理解していると呟く。
「もし、仮に、皆川とただならぬ関係だとしても、いま、彼に抜けられると困る。このまま飼い殺しという手もあるしな」
「旦那…様…?」
もし、本当にわたるとかなみがただならぬ関係だとしても、このまま飼い殺しという手を使うまでだという西田に、薄ら寒いものを感じたかなみは、西田を怯えるように見る。
わたるが飼い殺しにされてしまう…もう…庭に花を飾る事はできないとかなみは感じていた。