それから…しばらくして…紫苑が頼んだルームサービスの品々が届いた。
「あやかさん…こちらへ…」
ベッドに座っていたあやかをエスコートするように立ち上がらせた紫苑は、あやかをテーブルまで連れて行く。
「これは…どういうことですか…?」
テーブルに並んだ見た事もない食べ物や飲み物の数々に、こんな時間にこれだけのものをどうやって揃えたのかと、あやかは、紫苑に問いかける。
「このホテルのコンシェルジュは優秀なんだ…僕が要望するものは何でも揃えてくれる…」
あやかの問いかけに、紫苑は、ここのホテルのコンシェルジュは優秀で、自分が要望するものは何でも揃えてくれると、あやかに笑いかける。
「この…ドンペリ・レゼルヴ・ドゥ・ラベイなんか…滅多に手に入らない…」
ドンペリってよくテレビのホストクラブの特集で流れるドンペリかと訊ねるあやかに、紫苑は、それはドンペリの白と呼ばれるドンペリで、いまここにあるのは、希少性の高いドンペリのゴールドと呼ばれるドンペリなのだと説明する。
「十三万はくだらない代物だよ」
「じゅ、十三万?!」
ドンペリのゴールドを手にしながら、十三万はくだらない代物だと言う紫苑の言葉に、あやかは驚くしかなかった。十三万といえば、自分の月給の一か月分くらいだ。それと同じくらいの値段はするドンペリを簡単に注文する紫苑は、どれだけ金持ちなのだろうとあやかは思っていた。
「それじゃ…開けるよ…」
「待ってください…心の準備が…」
十三万もするドンペリの栓を簡単に開けようとする紫苑に、あやかは、心の準備ができていないと声を掛ける。
「僕も滅多の飲めない代物だよ。それを君のために用意したんだ」
「だからです…そんな高級なお酒飲めません…」
自分も滅多に飲めないドンペリをあやかのために用意したのだという紫苑に、あやかは、だからこそだと呟き、続けて、こんな高級なお酒は飲めないと呟く。
「そんな遠慮しないで…さぁ、冷えているうちに」