花灯篭ー27

「かなみさん…」
「はい…」
 熱く乱れた後にやってくる静かな時間…かなみは乱れた髪を直すことなく、わたるに寄り添う。短すぎる夏の夜だが、わたるとかなみは、互いの身体を寄せ合い、指を絡め合う。
「また…籠の鳥…なんですね…かなみさんは…」
「ごめんなさい…」
 ここを出たら、また、西田の籠の鳥に戻ってしまうのだなと呟いたわたるに、かなみは一言ごめんなさいと呟く。
「いいえ…いいんです…僕は…待てます…また…あなたが…庭に花を咲かせてくれる時を…」
 かなみの言葉に、わたるは首を横に振ると、また、かなみが庭に花を咲かせてくれるその時を待てると呟く。
 いつ咲くかわからない花だが、いつか咲くその時まで待とうとわたるは決めていた。次はどんな花が咲くのかわからないが、いつか何らかの花が、かなみの家の庭に咲く日が来るだろう。そのいつかを待つことしかできないけれど、いつか咲くその日まで待とうとわたるは決めていた。
「次は…どんな花が咲くか…楽しみです…」
「ありがとう…」
 次にかなみの家の庭に咲く花が楽しみだと呟いたわたるに、かなみは待つだけしかさせられないこんな自分との恋に、身を焦がしてくれて嬉しいと呟く。
「かなみさん…僕は…あなたが…思っている以上に…あなたの事が…好きなんです…」
 許されない恋でしかない自分との恋に身を焦がしてくれてうれしいと呟いたかなみに、わたるは、自分はかなみが思っている以上にかなみの事が好きなのだと呟く。
「私も…あなたが思っている以上に…あなたが好きです…」
 かなみが思っている以上にかなみが好きだと呟いたわたるに、かなみも、自分もわたるが思っている以上に、わたるが好きだと呟く。
ここを出れば、また籠の鳥だが、わたるが待っていてくれる限り、また、籠から出られる日が来るだろう。その時は、わたるに、その季節で一番綺麗な花を見せてあげよう。一番きれいな花で庭を飾り、わたるを待とうとかなみは決めていた。
「わたるさん…」
「はい…何ですか…?」
「私の家の裏手には…金木犀を植えてあるんです…」
「あの…それって…金木犀が咲いたら…いつでも逢えるって…事ですか…?」
「はい…そうなりますね…」
 家の裏手に金木犀が植えてあると呟いたかなみに、わたるは金木犀が咲いたら、いつでも逢えるという事かと訊ねると、かなみからそうなるという返事が返ってきた。